勉強本ブームの背景

k-hisatune2008-05-29

多摩大学のリレー講座「現代世界解析講座」も今日の寺島実郎さんの講演で6回目を数え、全12回のうち半分が終わった。以下、要点のみ。

  • インターネット、1億台に達したケータイ、4万軒を超えるコンビニ(売れ筋情報管理による生モノ販売)等は、情報ネットワーク技術革命の成果である。
  • 1969年にできた国防総省のアーパネットが1980年に学術ネットに接続、そして1993年についに商業ネットとリンク、それ以降の15年間は「アメリカが主導してきた軍事技術の民生へのパラダイム転換」と総括できる。
  • ネット社会では、「つながる」と同時に「つなげられている」。カーナビ(アメリカの軍事衛星情報)、エシュロン(アメリカが世界情報をモニタリング)。
  • ITは社会総体を変えた。軍事(サイバー戦争は目と耳をつぶす戦い)、政治(直接民主主義への限りない予感)、労働(平準化インパクト)、、、
  • 産業面では、ITとFT(金融技術)の結婚で、産業のマネーゲーム化が起こった。
  • 21世紀初頭のサブプライムローン問題は悪知恵の資本主義。貧乏人にお金を貸す仕組みで、3年たったら金利が急激にアップするが、そのときは買った住宅価格は倍になっているはずで、借金を借り換えることでもっと大きなローンを組むことができて支払が可能になる。これに証券化を組み合わせる。これがサブプライムローン。住宅価格はいずれ落ち着くのだから必ず破綻する理屈で犯罪にも近い。

2007年の最新統計によると、雇用者は5561万人。このうちパート、アルバイト、派遣社員契約社員等の非正規雇用者は雇用者の31%の1732万人。非正規雇用者のうち年収が200万円以下は75%の1302万人。これに自営業者で200万円以下の人(数字は?)と正規雇用者で200万円以下の430万人を加えると2204万人。つまり200万円以下の収入で働く人は労働人口6402万人の34%にあたる2204万人である。年収200万円ということは、時給1000円で必死に働いてもようやく届くか届かないかという数字であり、生活保護世帯の上限の年収でもある。アメリカでは貧困層は年収2万ドルというのが常識となっている。これがワーキング・プア問題である。
寺島さんは、誰がやっても同じという部品のような仕事を一生やっていくのかという問いかけをしていて、高度学習社会であるネット社会を生き抜くためには、自分自身を装備していくほかはないとアドバイスをする。
全労働者のうち、年収200万以下とそれを超える層は1対2の割合ということになり、超える層においても生活の劣化がみられる。IT革命によって誰でもできる仕事は下方に引っ張られ、かけがえのない能力を持った人はグローバル化の中で上方に引っ張られる。つまり格差が大きく拡大しつつあるということだろう。グローバル化によって途上国の低賃金に引っ張られてますます低くなっていく層と、逆に先進国価格に引っ張られて高賃金を獲得していく層とに引き裂かれていく。そして中間層が下方に引っ張られていく。中間層の厚かった日本の社会が変貌しつつある。これが格差問題である。

社会全体の設計の議論も大事であるが、個人としてもこのような社会の中で生き抜くための努力が今まで以上に必要になってきた。
最近、私自身にも若い世代向けの自己啓発や勉強法の本の執筆依頼が多くなってきたが、出版界の勉強本ブームには上に述べたような事情もある。私たちの世代の勉強ブームはよりよい生活を求めての動きだったが、今日の若い層は生き残り、サバイバルといった、より切実な動機があるように見受けられる。

(写真は、リレー講座を受講したNPO法人知的生産の技術研究会の仲間の、終了後の懇親会)