美容院の風景

数年前から、床屋ではなく、美容院に行くようになった。何十年と、床屋に通っていたのだが、クセのある私の髪の毛は、どうにもまとまらない。そういう話を知人にしたところ、「美容院に行ってみたら」と勧められたのだ。
美容院? あそこは女性が行くところじゃないのか。最初はそう思ったのだが、元来の好奇心が騒いだ。意を決して、とまで大げさなものではないが、どんなところか興味があったこともあって、行ってみた。
入ってみると、お客さんは女性ばかり。たまに若い男性もいるが、ほとんど女性。私のような五〇代の男性はまったくいない。美容師も、大半が女性である。
順番が来て、椅子の前に座ると、『FLASH』や『FRIDAY』といった少し刺激の強い雑誌が目の前に置かれる。普段はこうした雑誌は見ないが、美容院では遠慮することなく目を通す。
『FLASH』や『FRIDAY』ばかりではない。『女性自身』や『女性セブン』『MORE』『with』『25(ヴァンサンカン)』などの女性誌も並べられるから、目を通す。
読んでみると、なかなかおもしろい。「へぇ、若い女性のあいだでは今、こんなものが流行っているのか」とか「なるほど、これはビジネス誌ではお目にかからない、おもしろい発想だな」などといった発見が幾つもある。おしゃれなファッション雑誌はとても重い。あれは手に持って読むというより、机の上においてめくるという読み方なんだろうな。
女性の場合は、反対に『週刊文春』や『週刊新潮』『週刊現代』『週刊ポスト』といった男性誌に目を通してみると、普段は気がつかない発見があるかもしれない。
人と同じことをして、同じ雑誌を読み、ベストセラーを追いかけているのでは、独自の見方は生まれない。独自の生活、行動が個性を生む。男性が女性誌を見たり、美容院に行ってみたりするのも、「人と違うこと」をしているということになる。女性が男性誌を見たり、男中心の酒場に行ってみるのも同様だ。
仙台にいたときは女性の美容師が担当だったが、東京では宮城県気仙沼出身の中年男性の美容師が担当となった。違ったアドバイス、違ったやり方で整えてくれるのが面白い。
私が美容院に行くようになったのは、たまたま髪の毛のクセが強かったからだが、その機会を生かし、今は日常とは少し違う場を楽しんでいる。人と違うことをしたり、人と違う場に身を置いたりすることで、見えてくることもある。