「全体知」---現代世界解析講座の最終回(寺島実郎)

k-hisatune2008-07-11

今年4月から始まった多摩大学「現代世界解析講座」(寺島実郎監修)も、10日で全12回が終了した。監修者の寺島さんの「前期リレー講座の総括と問題意識の確認」が12日にあった。この講座は経営情報学部の1年生は必修なのだが、社会人にも開放したところ、250名以上の方が受講された。全12回皆勤者は105名だったというからこの熱心さは大したものである。
秋学期も継続するが、ラインナップの一部の発表があった。
イスラム学の山内昌之東大教授、ロシア大使だった都甲岳洋氏、榊原英資早稲田大学インド研究所長、JT生命誌研究館中村桂子館長、評論家の佐高信氏、同志社大学橘木俊詔教授らと寺島本人が数回ということになる。秋も楽しみな布陣である。
前回の寺島さんの講義は5月29日だったから一か月たったが、この間6月の上旬には欧州、下旬には米国東海岸を寺島さんはまわっている。世界の主要地点で潮流を定点観測しているのだ。アメリカの疲弊、求心力の衰退、アメリカなる仕組みの姿、、。
21世紀最初の7年半で、9.11以降の米軍兵士の死者はイラク4112人、アフガニスタン533人で計4645人。この期間でドルは対ユーロで7割りの価値の下落、01年8月に27.25ドルだった原油は140ドルを超えるなどエネルギー価格が高騰。以上、世界は無極化、全員参加型秩序へと向いつつある。
洞爺湖サミットは自国中心主義のブッシュ政権8年へのFAREWELLサミットだった。G8最後のサミットか。何も決められないG8。
日本の食糧自給率39%は先進国では異常に低い数字(英74%、独86%、米100%以上、仏200%)、第一次就業者率4%であり、輸送エネルギー、農地によるCO2吸収、地方疲弊の原因などからも自給率の向上が必要だ。株式会社型農業というシステムとしての農業と団塊世代の生き方のマッチング。都心回帰と田舎願望は農業で満たす。
日本はエネルギーと食糧で26.3兆の輸入。自動車・電子部品・鉄鋼などの主力製品で26兆の輸出。これらの産業でエネリギーと食糧を買っているという構造。エネリギーと食糧の価格が倍になったら?
生真面目なおろかさという日本人の病。構造的に立ち向かわなければならない。ボーダーレスな問題には国別割り当てのような方法ではなく国際連帯税構想(53カ国が参加)のような新しい仕組みが必要だ。日本でも50名の議員連盟が発足。北朝鮮拉致問題などはハーグの国際刑事裁判所(ICC)に訴えて、それ以外の問題の解決にあたるべき。
目の前の現象にコマネズミのように動き回、個別問題の中でストラグルするのではなく、全体知が必要。そのためには情報基盤がいる。IAEA国際原子力機関)の核査察予算の3割は日本のために使っていることからわかるように、世界は日本の核装備を疑っている。蓄積してきた平和利用技術という基盤をもとに発言していかねばならない。原子力のCO2排出は石炭の40分の1、石油の30分の1、LNGの20分の1だが、事故があったらとんでもないことになる。55基ある原発は20年で老朽化。隠れキリシタンのようにしている原子力工業の専門家も育成する必要がある。原子力は一次エネルギーの15%、電力の30%程度という絶妙のバランスに持っていくべき。

終了後、寺島さんは自民党の古賀と谷垣両派の合同研修会のため箱根に向かった。始まる前の雑談で聞いたが、小沢一郎の一心会、山崎派研修会、鳩山由起夫・邦夫の兄弟の会などでも講演をすることになっているという。