「問題は『数字センス』で8割解決する」(望月実)

会計の本は読んだことがないが、NPO法人知的生産の技術研究会の会合で最近会うようになった30代半ばの若い公認会計士の望月実さんから著書をいただいたので読んでみた。
「問 題は『数字センス』で8割解決する」(技術評論社)という本で、オビには「数字のプロ・公認会計士ならではの、数字を味方にして問題を解決する力が誰でも 身につく」、「数字から問題を発見し、数字をベースに解決策を考え、数字を使って相手の納得を勝ち取る」、「読む、考える、伝える」3つの力で数字を仲良 くなるのがキャリアアップの近道!」とある。
著者のスタンスは会計を学ぶというより、問題解決のために道具としての数字を学ぼうということだ。
第1章は、数字を「読む」力をつける。第2章は、数字で「考える」力をつける、第3章は、数字で「伝える」力をつけるという三部構成だになっている。
「社 会人に求められるのは『現実世界の問題を解く力』です。」「問題を見つけるために大切なのは、現実を正しく見るということです。とはいえ、現実世界は複雑 な要素によって構成されているため、なかなか本当の姿は見えてきません。そこで、数字を使って違う角度から見てみると今まで気づかなかったことが見えてき ます。」というのが著者の主張である。
具体例をもとにやさしく流れるように解説していくので読みやすく、短い時間で読み終えるこ とができた。フロー、テストマーケッティング、そしてスケジューリングやプレゼンのコツなどがなどがわかりやすく書いてある。こういう書き方なら若いビジ ネスマンも抵抗なくこういった世界に入っていくことができると思った。最近、若い会計士たちの書く本がよく売れているらしいが、彼らは同じように説明力に 優れているのだろうと推察する。
この本のユニークさは、「読む」「考える」「伝える」というように構成したことだ。知的生産や仕 事については「読み、考え、書く」という流れや「理解、企画、伝達」という流れがあると思うが、これを著者は「数字」という武器で解いていこうとしてい る。仕事という問題解決の山を数字というルートから登ろうするのが著者の志である。
確かに「数字」には現実の姿を一気に理解させ る力がある。30歳を過ぎたころ会社全体の中で問題部門と言われていた大きな組織に配属されたことがある。複雑怪奇で魔物のような組織の実態はなかなかつ かめず、群盲象をなでる状況だった。そのときに「データに見る○〇」という私家版のメディアを勝手に発行したことがある。仕事でまわってくる数字、組合の 出す情宣物の中の数字、など日常目につく数字をベースに部門を見ていこうという考えだったが、常に新しい視点や切り口や、そして解決策を提示できたと思 う。数字を用いて、現実を読み、問題解決策を考え、それを同僚に伝えて、全員で実行していく、こういうことだったから、著者のいう「数字センス」の意味は よく理解できる。
独自の視点を持ち、信じる武器を用いて「仕事」を論じるのがビジネス書であるといってもよいと思うが、現実世界 を読み、それをもとに自ら考え、解決策を上手に伝えて、実行していく、そういう流れは同じだから、読者はそれぞれの著者の体系や世界から自分に役に立つヒ ントやコツを手にすることができる。そしてその中核は「考える」というところにある。
性能の高い武器を持ち、その武器で独自の考えを育み、ゆるぎない世界を持つことが一番大切なことだが、その上で自らの体系をさらに進化させるためにも「数字」に関心を持つことが必要である。

問題は「数字センス」で8割解決する

問題は「数字センス」で8割解決する