編集者の歓びを一つあげるとしたら、、、、

机の上に本が10冊ほど積みあがっている。
ここ5−6年ほどはあまり本を読まなかった。本を書くのに忙しかったからだ。若いころ作家や学者、エッセイストなどの書斎を仲間と一緒に訪ねて取材し、それを本にしてたことがある。小室直樹さんにお気に入りのテレビ番組を聞いたとき「テレビは見ない。テレビというのは見るものでなく、出るものだ」との回答に驚いたことがある。ややそれに近いかもしれない。
本を書くことを目的とした読書は続けざるを得ないが、これからは楽しみとしての読書にも時間を割いていきたいと思っている。しかしまだ読書計画を立てるまでには至っていない。

机上の本を並べてみる。
「奇縁まんだら」(瀬戸内寂聴、画・横尾忠則日本経済新聞出版社
山本五十六の大罪」(中川八洋弓立社
「中国沈没」(沈才彬。三笠書房
「RURIKO」(林真理子角川書店
「敗者復活戦」(高任和夫。講談社
「あなたも作家になれる」(高橋一清。KKベストセラーズ
「中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日」(北野幸伯草思社
「四百字十一枚」(坪内祐三みすず書房
「日本の名著 二宮尊徳」(中央公論社
「僕は人生についてこんなふうに考えている」(浅田次郎。海竜社)

芥川賞直木賞の裏方を長くつとめた文芸春秋社の名編集長の手になる「あなたも作家になれる」(高橋一清)は、読みものとして実に面白いが、編集者の仕事の中身を垣間見ることができる。
「(文芸)編集者が行う仕掛け技というのは、思想革命に近いかもしれないと思う時がある。
誰ひとりその可能性を知らない無名の人の、何かの片鱗に触れて、この人には時代を先取りした何かがあると信じ、信じた自分を励まし、当人も励ましながら一つ一つの作品を大事に仕上げて、読者に渡していくこと、もしも編集者の喜びを一つあげるとしたら、私はそう答えるだろう。」
この本全体や、この文章を読んでいて、ある編集者を想い出した。この人は私を世に出してくれた人だが、今は定年でなおかつ体を壊しているので、仕事はできない。この人には短い期間だったが意図的に育てられたという感慨がある。もっと早くから出会い、もっと長い時間を一緒に過ごしたかったが、今にして思えば運命の編集者との出会いだったのかもしれない。この本を読みながらそう思った。