「ロシア新体制の政治経済展望」(都甲岳洋)−−多摩大リレー講座

本日の多摩大リレー講座は、ロシア大使などを歴任した都甲岳洋さんである。1934年生まれの外交官で、フルシチョフ時代、ブレジネフ時代、ゴルバチョフ時代、エリツイン時代と都合4回のロシア駐在の経験がある、日本有数のロシア通だ。テーマは、「ロシア新体制の政治経済展望」。

  • ロシアは共産主義から資本主義に向けた転換期にある。自由な市民社会を経て世界の一員となっていく困難な道のりを歩み始めた。
  • プーチンの8年間は、政治・経済的に安定した時代だった。強権的に反対勢力を押さえ込み「崩壊から救うことができた」と豪語。資源外交や安全保障などの国益外交、メディアや資本家の統制、税制改革などでロシア経済は順調に発展した。そして国民の支持率は70%と高率を維持した。
  • 権力争いでイワノフ、ズブコフを退けたプーチンは42歳のメドベージェフを後継者とし、大統領選で圧勝。その翌日、プーチンは首相に就任し80%の支持で強力な首相となった。国内ではニ頭体制への大きな転換期にある。
  • プーチン時代のロシアは平均7%成長で、中産階級が21%から52%に増え、消費ブーム、日本食ブーム。インフレ、中小企業の遅れがあたtが、原油高騰の追い風を受けてエネルギー大国になった。天然ガス・石油のガスプロム(社長をシベリア送り、サハリン2)、原子力発電のアトムプロム(世界4位の原発。2012年までに26基加わる)。2020年までに世界5位の経済大国になると宣言した。
  • しかし、08年8月8日のグルジア侵攻、金融危機でその夢は遠のいた。「一バーレル70ドルまでなら大丈夫」。
  • ハード路線のプーチンから、ソフト路線のメドベージェフへ
  • MD(ミサイル防衛システム)はロシアへの脅威だとして反対、コソボ紛争などで「新冷戦」か、という状況だったが、ロシアはグローバル経済の一部であると思い知らされた。
  • アメリカは弱体化したロシアを刺激し過ぎた
  • NATOは、グルジア紛争、ウクライナ問題もあり、ロシアをどこまで取り込んだらいいか悩んでいる。
  • メドベージェフは、エネルギーの25%をロシアに依存している欧州に対して「欧州共通の家」というゴルバチョフの概念を再提唱した。
  • ロシアは、アメリカ一極主義から、多極化世界になることを望んでいる。キューバニカラグアへの接近、WTO加盟の躊躇。
  • ロシアはヨーロッパに対し歴史的に被害妄想がらい、コソボ、MDなどの怨念がグルジアで爆発
  • しかし、ロシアの目標である市民社会を確立することによってグローバル社会に統合されていくことを望んでいる。
  • 日露関係。2012年のウラジオストックで開催されるAPEC、サハリン2(日本の6%のLNGが供給される)など、日本のプレゼンスが大きくなっている。日本の持つ省エネ技術によるシベリア・極東の開発という多いな流れは進んでいる。
  • 北方領土問題(日本の立場は4島一括返還)は、日露共通の解決すべき問題だとの認識あり。こういった流れの中で解決すべき問題だ。
  • 日露関係は、やや明るい
  • プーチンは、明確な分析力があり理性的で理知的。人事にも深い配慮をする。思慮深い人柄で行政能力が高い。3時間の記者会見をメモをみないで一人でこなすなど有能。