「戦略キャンプ」-2泊3日で最強の戦略と実行チームをつくる

3月にダイヤモンド社から出た「「戦略キャンプ」-2泊3日で最強の戦略と実行チームをつくる」を読んだ。

IBMビジネスコンサルティングサービスの戦略コンサルティンググループが、この会社独自の文化の中で育った考え方と、このグループのコンサルティングの現場から得た知見が盛りこまれている良書である。
「戦略キャンプ」とは、変革にかかわるキーパスン全員がオフサイトで合宿を行い、徹底的に議論し、腑に落ちる合意に至ることによって、困難な課題も解決に導くことと定義されている。

会社の基本戦略が実行されないのは、ホンネで議論していないから戦略の決定時点ですでに問題を内包している、つまり腑に落ちる合意をしていないことが問題だと指摘している。だから、よく練られた合宿というステージを用いることによって、論理的にも感情的にも全員が納得できる合意を図ることができると主張している。そのための知恵と実際的なノウハウを提示している。
この本では、リアルタイムに議事録ができあがる会議用の専用ソフト、合宿場所の選定、正しい宴会のやり方、などの洗練されたノウハウの説明もあり、すぐに実行してみたくなる仕掛けを持っている。
主張の大ぶりの骨格を一定のリズムでわかりやすく説明できているので、説得力がある良い本に仕上がっている。
著者らの企業における実際の経験や、クライアント企業のコンサル体験を踏まえた内容となっており、共感する読者も多いと思う。

第一部で披露されている考え方では、「感情と論理の相互作用が困難な合意を可能にする」「リアルタイム議事録が議論の質と効率を高める」「ギリギリで成立する合意がやり遂げる力を生む」「合宿経営への道」などが整理されて述べられている。

第二部は、戦略キャンプの進め方が臨場感をもって理解できるようにストーリーしたてで書かれている。主人公は、事務局に指名された部長クラスで、課題は二つの経営の重要課題である。経営改革の現場に一度でも立ったことのある人は、身につまされるだろう。

第三部の「戦略キャンプ実践マニュアル」は、座長の決め方、日数、場所、メンバーの選定、席次、自己紹介、休憩、リアルタイム議事録、宴会の実践マニュアル、合宿のその後、、など実践的な課題とそれを克服するノウハウとドゥハウが紹介されていて、役に立つ。

この本を読みながら、40代半ばまで勤務していた大企業で、経営革新プロジェクトに心血を注いでいたことを思い出していた。この主人公の立場は私の企業での体験と重なるところが多かった。多くの企業で改革を担当する人は、同じような課題と障害を持っているので、深い共感を呼ぶだろう。

そして、私の一連の著作との関連で内容を読んだ。
この本のテーマは私の著作の問題意識と重なる部分が多い。それは組織や関係者間の「合意」をいかにしてとるかということであり、私はそれを「社会的合意形」という言葉で述べてきた。

2005年に書いた「合意術--深堀型問題解決のすすめ」(日経新聞社)や、2009年に出した「タテの会議 ヨコの会議」(ダイヤモンド社)が、私なりの答であるし、広くいえば「図解コミュニケーション」という考え方とその技術も、明らかに「合意」に関係している。「合意術」は「納得ずくで仕事をうまく進める法」であるし、「会議術」では、理解と伝達を目的とするタテの会議と企画・構想を目的とするヨコの会議を紹介している。

  • 関係者の実行意欲がわかない合意を悪い合意と名づけ、具体的な行動に結びつく合意を「よい合意」と呼び、そのための考え方と方法を述べた。
  • 合意は、定性情報・図解思考・顧客視点を用いることによって成立する。
  • 評価より評判、説得より納得、理論より方法、構造より関係、、、といった一連の考え方。

ビジネスは、煎じつめれば、「コミュニケーションと合意」がテーマであり、その大きな山に様々なアプローチ方法があるということだ。

この「戦略キャンプ」という本は、改めてそういうことを想起させてくれた。組織やプロジェクトの責任者は、この本を読むことによって、ノウハウだけでなく、前向きのエネルギーをもらえるだろう。