「神保町「二階世界」巡り  其ノ他」(坂崎重盛)

『神保町「二階世界」巡り 及其ノ他』という本を読んだ。平凡社刊の380ぺージの厚い本だ。
オビの表には「夢か・うつつか・幻か あの町、あの人、あの文章 東京依存症的随文集成」、裏には「志ん生碑 昼酔う人の 浮き沈み(露骨)」という句がみえる。
坂崎さんは、1942年生まれで、造園学と風景計画を学び、横浜市に勤務後、退職し編集者、随文家になった。「超隠居術」という書だったか、一時ビジネス本でも見かけたが、今は「東京下町」をテーマに「随文」を書いているらしい。
神保町「二階世界」巡り及ビ其ノ他
プロローグで、神保町の古本屋の本当の醍醐味は、異界としての二階の世界であるとして、有名な古本屋の例をいくつもあげている。
其の一(第一章にあたる)は、「この人を巡りて」で、下町界隈の通人である半村良正岡容吉田健一安藤鶴夫池波正太郎山田風太郎植草甚一草森紳一野田宇太郎を論じている。
其ノ二は、「この町を巡りて」で、浅草、向島人形町、銀座、神保町、神田須田町、湯島、神楽坂、上野を巡る食の楽しみが描かれている。
其の三は、「この本を巡りて」で、山口瞳村松友視石田千伊藤桂司山本容子嵐山光三郎、、、、。そして本を巡る随文が書かれている。

「エピローグにかえて」の「石版「東京名所絵」調べ事始め」は、蒐集家としての動きの深まりがわかる。20年ほど前に「九段坂ヨリニコライ堂遠望」、「吾妻橋月夜」などの石版の名所絵と邂逅し、蒐集本能が目覚める。その絵の蒐集を通じて、描かれた風景に関する知識を得たくなり、コレクションが始まる。学術的研究をする気はなく、石版周辺の雑情報と石版名所絵を気長に集めていくという宣言がされている。

「初出掲載データリスト」を見る。「東京人」、「遊歩人」、「どうぶつと動物園」、「「うえの」、「波」、「すまいろん」、などの小さな雑誌と、本の解説を書いた文章が、この本の材料である。池波さんは江戸に長逗留された」と誰かが池波正太郎のことを書いていた記憶があるが、坂崎さんは東京下町の江戸から明治期に住んでいるという趣である。

著者の収集癖と懐古趣味が溶け合った不思議な趣を持つ本である。子どもの頃からの懐古趣味、育った環境、、そして蒐集癖が、このような本を生んだ。この本も先日の神保町の古本屋で手に入れたのだが、2009年9月発刊だからまだ新しい本だ。古本屋に高く積まれていたから、古本屋としても読んで欲しい本なのだろう。

この本に刺激を受けて、古本と下町の探訪にも興味がでてきた。