今から百年前の1900年前後には、日本人による英文で書かれた名著が出現している。内村鑑三「代表的日本人」、新渡戸稲造「武士道」、岡倉天心「茶の本」である。
これらの本はそれぞれその時代に大きな影響を与え、その後も日本についての紹介書として長く読まれ続けている。
内村の「代表的日本人」は、日清戦争のさなかに書かれたが、後のアメリカ大統領ケネディが尊敬する政治家として上杉鷹山をあげたのはこの書の影響である。また新渡戸の「武士道」は、日露戦争に際してアメリカのルーズベルト大統領がこの書を高く評価していたことで、日露の仲介役を買って出てくれた。
「代表的日本人」という書物には、日本人の名前で訳がついている。原文は英文だったので、後の日本人が日本語に翻訳したものを私たちは読んでいることになる。私が読んだのは岬龍一郎の訳で、1908年の再版版である。
- 作者: 内村鑑三,岬龍一郎
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2009/07/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この書では代表的日本人として、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮を挙げている。彼らを西洋文化の基盤であるキリスト教になぞらえて紹介するという手法をとっているのが特色である。
西郷隆盛は、クロムウェル的な人物であり、キリスト教にもっとも近い陽明学の徒であるとし、西郷の革命であった明治維新において、新しい日本を健全な道徳的基盤の上に再構築しようとしたと紹介している。
上杉鷹山は、聖書にある約束された王国がすでに異教徒の日本において実現されていたとして、「死を恐れぬ勇者」として紹介している。
二宮尊徳は、道徳の力によって経済を復興させるというやり方で多くのプロジェクトを成功させたとし、印旛沼と手賀沼の干拓をレセップスのスエズ運河の成功とパナマ運河の失敗と比している。
中江藤樹は、仏教を嫌い、朱子学を超え、キリスト教に近い陽明学んに辿りついた。孔子の進歩性の部分を受け継いだ陽明学を信奉した近江聖人として紹介している。
日蓮は、ルターの宗教改革が聖書のみに基づいていたと同様に、仏教のあらゆる宗派を学んだ後に、仏陀の最晩年の教えである華厳経(法華経)を最高の経典であるとし、国をあげて信奉するという戦いをモハメットのごとくすすめたとしている。日蓮宗は純粋な日本の唯一の仏教である。
内村鑑三は、キリスト教の聖人や殉教者になぞらえて日本の伝統である武士道を体現した人物を紹介しながら、西欧の人々の日本理解を推進しようとしたのであるが、百年後に生きる日本人に向けての強いメッセージにもなっている。
「代表的日本人」という言葉は刺激的である。「何人にも遺すことのできる本当の最大遺物は何であるか、それは勇ましい高尚なる生涯である」(デンマルク国の話)という内村のメッセージは重い。高尚なる生涯を送ったより多くの代表的日本人を現代の日本人に向けて紹介することは崇高なる仕事である。