拙著を買う人を発見!--著者としての「至福の時間」


あるターミナルの駅ビルで昼食を食べて、そのフロアにある書店に入った。私の新著「人生の道を拓く言葉130」(日経ビジネス人文庫)がどこに並んでいるかを見ようと軽い気持ちで書棚を眺めたら、一番前面の文庫のコーナーの上の方に面を出して並んでいるのを見つけた。
一緒に並んでいるのは、右隣は「戦略の本質」、左は「28歳の仕事術」と「人事部は見ている」で、いいところに置いていただいていた。
ふと隣に女性が入ってきて、私の「人生の道を拓く言葉130」をいきなり取り出した。驚いて少し下がって静かにその光景を確認する。この女性は買うのだろうか、買わないのだろうか。右手で2回ほどめくって内容を確認していると思ったら、それを片手に他のコーナーへ行ってしまった。この間の時間はどのくらいだっただろうか、長い時間だったような気もするが、実際は一瞬の出来事だったと思う。

この女性はキャリアウーマンと思しきはっきりとした顔立ちであったが、雑誌のコーナーなどを身軽に飛び回って物色している。私の本は肩にかけるようにしているので、私の位置からは遠目に表紙が見て取れる。こういう光景に出合うことはまずないと思い、バッグの中から小型カメラを取り出して構えることなく、さっと撮影してみたのが、この写真である。

この女性は、私の本といくつかの雑誌を持ってレジで買っている。

自分の著書を実際に買う光景を見たのは、これが2回目だ。書店で手にする人は何度も見ているが、人は簡単には買わないものだ。
最初は宮城大学時代に、仙台の大型書店で、これも女性が手にして買おうか迷っていた。そして買うことに決めたと思われるその瞬間に、思い切って「それ買いますか。私が著者です。」と話しかけてみた。相手は一瞬びっくりして少し後ずさった感じだが、「そう、今は仙台にいらっしゃるんですね」と返事をしてもらった記憶がある。

もう亡くなった江藤淳が、文芸春秋に連載していた「海は蘇える」という山本権兵衛を題材にした歴史小説の連載をしていた頃、山手線の車内で品のいい紳士が文春の、その連載を読み始めたというエッセイを書いていた。江藤はそのまま食い入るようにその紳士の表情と目線を追っていたそうだ。考えてみれば、小説や評論を書き続け読者がたくさんいるということは知ってはいたが、実際に読んでいる人を見たのは初めてだとそのエッセイで述懐していた。話しかけようと思ったが、江藤ですら固まってしまったのだ。

この女性がいきなり私の本をつかみあげ、2-3ページを読み、買うと決め、そして実際にレジで購入するという一連の流れをまじかでみて、その上その光景を写真に撮ることができた。この女性は新著に最初から関心があったのだろうか、題名にひかれたのだろうか、。。この短い時間は、今でもありありと思い出すことができる。この時間は、今になってみると至福の時間であったと思う。こういう読者の顔を意識して次の仕事にあたらねばならないとやや興奮して考えてしまった。

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8月2日から母が上京して妹宅、拙宅、弟宅を二週間にわたって泊まり歩いた。14日には横浜中華街の重慶飯店で、母を囲んで、15年ぶりに「いとこ会」を開くことになった。お盆なので参加人数は少なかったが、かつこちゃん、まーちゃん、私、弟が集まった。昔話と震災の話が中心だったが、母を囲んで飲食をしながら楽しい時間を過ごした。