秋のリレー講座1。寺島実郎「2012年夏の総括--世界の構造変化」

多摩大学寺島実郎監修リレー講座「現代世界解析講座 2012年秋学期--3・11の衝撃、そして世界の構造変化--我々はどこに向かうべきか」。
初回は、寺島学長で、テーマは「2012年夏の総括---世界の構造変化」。

尖閣・中国問題から

  • アメリカ人のシンクタンク人の世界情勢の把握は、アジアのCCTV(中国中央電視台)、イスラムアルジャジーラカタール)、ヨーロッパはBBCまたはフランス24。
  • CCTVは、英語放送。カラー。中国の映像と主張をひたすら流している。アフリカはナイロビが本部で20以上の支局。パラボアンテナ。南太平洋も。
  • 日本はNHKの在留邦人向け番組。大河ドラマや相撲。日本語放送。最近英語の「NHKワールド」をやり始めたがCCTVの100分の一。-
  • 8月15日のCCTV.竹島問題(従軍慰安婦問題)、北方領土問題(67年後の今ももめている)、尖閣南京大虐殺の)。迷惑な隣人・日本というイメージ。平和国家、日本の技術の今までの貢献は一切語られていない。
  • 8月15日に尖閣に立てた旗には「世界華人保釣連盟と書いてあった。3000万人の中華系の旗。尖閣問題は日中二国間問題ではないという意図がみえる。中国、台湾、香港の旗。
  • 大中華圏、2008年段階では中国のネットワーク型発展という仮説だった。現在では実体化してきた。域内のモノとヒトの流れは倍増、中国への投資の6割以上は域内の投資、、。
  • 大中華圏の政治化。政治的意味を持ち始めてきた。2008年の北京オリンピック胡錦濤は「中華民族の歴史的成果、栄光」という言葉を使った。中国は55の民族からなる多民族国家、そのうち27が少数民族。版図を拡大し帝国主義的国家になった。
  • この中国を治める理念は、社会主義から「中華民族」という言葉に変わりつつある。満州族の清の時代に海外に逃れた3000万人の在外華僑は漢民族。ここにも「中華民族」というキーワードは共感を呼んでいる。この在外華僑にもCCTVがリーチしている。台湾、香港、シンガポールは英語圏であり、インターネット普及率が極めて高い地域だ。
  • 先の国連での楊外相発言は、「日清戦争の1895年の下関条約で台湾を日本に盗られたた時に尖閣も付随して盗られた」という趣旨だった。中国の理屈が見えてきた。
  • 1951年のサンフランシスコ平和条約で日本の残存領土が確定。韓国は竹島は韓国領土にして欲しといとアメリカに申し入れたが拒否された。当時の日本は領土については主張できる立場になかったし、中国も尖閣について抗議もしていない。この条約には異論があるなら国際司法裁判所に訴えることができるともある。だから、竹島尖閣も日本の領土だ。
  • また、1972年の沖縄返還協定では、北緯南緯と明確に範囲を示して、日本に潜在主権があるが、アメリカの施政権を確定していた。その中に尖閣が含まれている。
  • 当時、尖閣付近に資源の存在が明らかになり中国が領有権を主張し始めた。ニクソン訪中があり、アメリカは中国に気を遣って「領有権にコミットしない」という態度を取った。最近北京を訪れたパネッタ国防長官習近平に「中立の立場をとる」と変えてきた。
  • 日本のメディアはパネッタ長官に尖閣日米安保の枠内に入るかと執拗に質問し、「条約の義務は履行する」と答えている。武力行使についてはあいまいな立場を取っている。動くかもしれないし、動かないかもしれない。この立場は中国にもとっている。「あいまい作戦」である。アメリカはアメリカ自身の国益の最大化が目的だ。尖閣という無人島に中国が侵略したとき、米中戦争に発展する可能性もあるが、その時に若いアメリカ人の血を注ぎ込むだろうか。アメリカは、その時の世論の動向を見ながら政権が判断することになるのではないか。
  • アメリカ上院のウェブ議員は「日米同盟に配慮して、尖閣は日本の領土だと言うべきだ」と質問しているが、答弁は「あいまい」だった。この時に、日本は「アメリカのあいまいさが混乱の原因だ」と抗議声明を出すべきだった。
  • 小さなナショナリズムで向き合ってはならない。これは「未解決の解決」としておいて、双方にプラスになることを積み上げようではないかというメッセージを発するべきだ。
  • 竹島いついては1965年に日韓秘密了解がある。「双方が領有を主張。漁業権が大事。新たな施設はつくらない」。これを韓国が破ってきた。
  • 台湾は漁業権に関心があるから、そこに踏み込んで中国から引きはがすべきだ。
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エネルギー地政学の変化と中東。

  • フィリピン人船員が海賊から捕らわれている。日本の船舶の7割がフィリピン人船員。
  • 繁栄の極みにある湾岸産油国カタール、サウジ、、)のまわりの外環は、エジプト、シリア、ソマリアなどが食いちぎられている。カタールは一人当たりGDPは12,5万ドルで日本の三倍という金持ちで世界一位。
  • 中東のイラク、アフガンで疲弊したアメリカは、シェールガス・オイル革命で中東に依存しなくてもいいようになってきた。それは中東離れトアジアシフトの要因
  • 日本は、選挙目当てで国内には脱原発の幻想をばらまき、世界には原発を売り込むという路線を取ろうとしている。「卑劣な国」という非難。アメリカとの日米原子力協力との利害調整もできていなかった。
  • 原発を20基ぷらすアルファ残すとしても、30基は廃炉しなければならない。廃炉にも高度で大量の技術者が必要だ。このような状態で、原子力に技術に一生を賭ける若者が出て来るだろうか。
  • 原発が停止してもなんとか乗り切ったというが、その要因はLNG(天然ガス)へのシフトでしのいだに過ぎない。7兆円のエネルギー輸入のうち、この原発分が3兆円にのぼった。日本の電気を灯すための7兆円と言う数字は6兆円の食糧輸入以上の額だ。過去の遺産を食いつぶしているにすぎない。やがてボディーブローのように効いて、体力が弱ってくるだろう。
  • 日本はエネルギーに関する選択肢を多様にしていくという戦略をとるべきだ。平和、そして供給を安定させることが戦略であるべきだ。ベストミックスだ。
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