「井上ひさし展」--22万冊の蔵書

神奈川近代文学館で開催中の「井上ひさし展」を観る。
井上ひさし(1934-2010年)は、「吉里吉里人」「ひょっこりひょうたん島」などで馴染みのある作家だ。仙台文学館の初代館長を9年つとめて、2007年3月に退任している。この文学館はいい企画をするのでよく通ったものだ。
企画展で資料を眺める中で、この人の母親が偉い人だったということを感じた。世の中で名を成している人は母親が偉かった人が多い。父親はいろんな人がいる。

母親・マスとの手紙のやり取りでわかる。涙が出る。仙台の児童養護施設ラ・サール・ホーム(光ヶ丘天使園)などにいた母親との手紙が展示されている。
「私も元気に土方の道に精進します。土方とは地球の彫刻家だそうですから、安心しました。」
「映画の友社あきらめずに毎月投書しなさい。どんなことでひさしちゃんの運命が善展するかわかりません。、、君の文才には大きなる期待をかけて居ります。紙よいとし子を守りなせ。」
「なあ、この世はちゅうもんは、わしには水晶みたいな階段じゃなかったぞ、、」

入り口の映像では、そもそも動物には笑いがない。笑いは人間が外でつくるしかない。そしてそれを共有する。それが最大の仕事だ。哀しみなどを忘れさせるにが精いっぱいの抵抗だ、という井上が主張している。

井上ひさしの言葉。

  • 仙台に来る映画をすべて観よう
  • 自分を大切にしていれば私の本来の目的の、ほんとに日本人の新劇も書けるでしょう」
  • 日に三本の映画を観て、一日に約10-20枚の原稿書き、、
  • 、、華々しいようですが、一字一字書かねばならないことを考えると死にたくなります。

5歳で失った父親の影響は本だった。
父親の遺した本の山の前に立つたびに、わたしは生命の連続性ということに思い当たる」
井上ひさしの遺した蔵書は22万冊にも及ぶ。
それを生前から山形県川西町に1987年にできた「遅筆堂文庫」に寄付しており、そこでは1988年から2012まで生活者大学校が開かれ著名な人たちが講義をしている。

売店で「本の運命」「作文教室」「青葉繁れる」を購入。
本の読み方十箇条。以下、参考になった部分。

  • 「索引は自分でつくる」:本の扉とか見返しに、大切だということがら、言葉をずーとならべて、それが出てきたページを書いておく。、、大事な本はそうやって読む。引用もすぐできるし、あとでとても役に立ちます。
  • 「本は手が記憶する」:「書き抜き帳」を用意して、本でも新聞でもなんでも、是は大事だと思うことは書き抜いていく。出典とかページ数とかも書いておきます。そんな手帳が1年に5-6冊。一種の「知的日録」。情報のポケットをひとつだけにする。中身を単純に時間順に並べる。
  • 「本はゆっくり読むと、速く読める」:最初の10ページくらいはとくに丁寧に、登場人物の名前、関係などをしっかり押さえながら読んでいく。そうすると自然に速くなるんですね。
  • 「専門書は、目次を睨むべし」
  • 「大部な事典はバラバラにしよう」
  • 「個人全集をまとめ読み」:ダイジェスト、索引、そして著者の言葉遣いや書き癖について気がついたことを小まめにメモしていく。読み終わったときには、評伝や作家論が欠けるぐらい、充分な資料が自然に抽出されている寸法になる。

井上ひさし 作文教室」から。

  • 自分にしか書けないことを、だれでもわかる文章で書くということだけなんです。(だれでも書けることを、だれにもわからない文章で書いている人がいる)
  • 自分を指す人称代名詞は、ほとんどの場合、全部、削ったほうがいいんです。
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夜は、横浜そごうのライオンで、ビジネスマン時代の仲間(浅山、環、松本)と会う。13時半から17時半まで、4時間も。


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