寺島実郎「何のために働くのか--自分を創る生き方」(文春文庫)

寺島実郎「何のために働くのか--自分を創る生き方」(文春文庫)を読了。
大学生を含めた若い世代にぜひ読んでほしい本だ。

企業に勤めながら、仕事を通じて時代と格闘し、成長を続けてきた男の物語である。
寺島さんは卒業時に、アカデミズム、ジャーナリスム、産業現場という3つの選択肢を考えたのだが、数十年経ってみると産学官とジャーナリスムの仕事をするという現在の場にたどり着いている。原点に回帰したという以上に、関心と興味を持ち続け結果的に3つの選択肢のすべてを実現しているということもできる。

1980年からの7年間に及ぶ寺島さんの「失語症」の時代に私は出会っている。
中央公論の「われら戦後世代の坂の上の雲」で名前は知っていた。ニューヨークとワシントン時代には現地に何度も訪ねたし、帰国の度に東京で何度も会っている。その間がメディアへの論文や著作を出さなかった「失語症」の時代だったのは初めて知った。「われら戦後世代の坂の上の雲」から「地球儀を手に考えるアメリカ」までの期間である。海外での知見を深めるうちに、自分でわかったつもりでいたが、まったくわかっていなかったことに気づく。半知半解の自分に気づき沈潜する時代だ。この期間、大きな時代の波に飲み込まれ格闘する中から寺島さんは失語症状態を脱していく。

私の場合は、全共闘運動が吹きすさぶキャンパスのなかで大学1年生の後半に失語症にかかりそこから脱出するのに1年以上かかっている。自分の言葉がないことに気づいて次第にものがしゃべれなくなっていった。受け売り的知識でつまった頭でっかち状態から脱するために、自分に欠けていた行動力を自覚して、激しく「行動」する中から光を見つけようと決心する。そしてその舞台を探検部に設定する。1年間の怒涛の行動の時代を経てようやく自分の言葉を語れるようになっていく。

この本のキーワードを以下にあげていく。

  • 寺島の自分史から。

「マザコン」「読んだこと、感じたことがににじみ出るような文章を書き、それを人に読んでもらうこと」「短歌」「自分の書いた文章で、人の心をつかまえたり、人の気持ちを動かしたりする。そういうことに自分が向いているのではないか」「三つの選択肢。アカデミズム、ジャーナリズム、産業現場」「マージナルマン(境界人)」「中央公論粕谷一希」「1980年のわれら戦後世代の坂の上の雲」「折り合い」「2か月で辞表、大原寛」「IJPC(イラン・ジャパン石油化学)」問題解決のために情報を集める」「1980年以降7年間の失語症時代」「NYC、WAS」「問題解決をしてきたことが誇り」「知的三角測量」「知的インフラとしての人的ネットワーク」「サムライ・イングリッシュ」

  • 働く意味

「カセギとツトメ」「不条理の克服」「歴史の進歩」「天命」「天職」「まっとうな大人」「教育が残る」「使命感の自覚」「一点の素心」「こだわり」「小成」「謙虚」「出会いと自覚」「時代認識」「6つのジャンル:環境、新エネルギー。医療・介護・健康。次世代ICT。食と農業。グローバルサービス、エンターテイメント、観光、文化交流。新しい公共NPO、NGO」「企業モノ小説」「自分のネットワーク」「親というハードル」「新渡戸の武士道と内村の後世への最大遺物」「高尚なる生涯」「歴史における個人の役割は重い」「個人・組織・国家「アーチスト・オブ・ライフ」「ワークウェア(能動的福祉)社会の地平」

  • メガトレンド

グローバル化と全員参加型秩序」「アジアダイナミズムとネットワーク型の世界観」「IT革命の本質」「食と農業の未来」「技術と産業の創生とTPP問題」「エネルギー・パラダイムの転換」