木内昇(のぼり)という女性作家に注目している。
1967年生れ。出版社勤務を経て2004年に小説家デビュー。2011年、「漂砂のうたう」で直木賞。
江戸時代、幕末を描く作品が多い。庶民が主役の作品。
- 作者: 木内昇
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/12/05
- メディア: 単行本
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「ある男」に続き、「櫛挽道守」(集英社)を読み終わった。
中山道の木曽路の小さな村に住む「お六櫛」という名品をつくる職人一家が暮らす物語。
この小さな保守的な村にも幕末の波が押し寄せる。櫛職人の家族を題材にしているが、普遍的な職人の世界を描き切っている。櫛職人というテーマを深く掘り下げた名作だ。「ある男」もそうだったが、世の中を変えようとする無名の庶民の生きざまには読後に静かな感動を覚える。
この作者の人々を見つめ描く腕もただものではない。
- 吾助はなにも教えぬ代わりに弟子が学ぼうとするのを咎めもしなかった。
- 二度としくじりをせぬよう、戒めのため目につくるところに飾ってあるのだ
- 慣れろ。道具をわがものにしなければ。あとはわれで工夫すろ。
- 引くのと押すのとで微妙に力加減を変えていたのである。
- 一向に飽きのこない面白さと、一生を掛けるだけの深みと、それを抜きん出た技量でものにしている父への尊崇
- 道具いうのは職人の命です。
- 作るいうより、もともとあるべき形を導き出しとるような気さえしますんや
- 江戸では、、、仕事を高めていけるのだ。
- 己の足どりを乱してはなんね。他人の歩調に引っ張られては、己の仕事はできんだで
- 自分の手でありながら誰かに操られているような不思議を覚えながら一枚を挽き終える。
- わしはここを動かずに、わしという櫛師を知らしめたる、そうやってしがらみだらけの世を変えたると決めたんや
- なんともいえねえ味があるで、風格、いうたらええじゃろうか。一朝一夕では出ねえ味だ。
- うまぐいっとるとごろは大概、考えずともできるとこだ。そごを解き明かすとかえってぎこちなくなる。だで、考えるな。むしろ、悪いところ、うまぐいがんところから目を逸らしてはなんね
- 先代、先々代からずっと受け継いできたものだげ。おらのこの身が生きとる間、ただ借りとる技だ。んだで、おらの技というこどではねえんだ
- 一日挽かねばそれだけ勘が鈍る。勘を取り戻すには、鋸を持たなかった日の倍の日数がかかる。
- 腕は立っても、心棒がないやね。それをこれから己の手で掴まなあかん
小説のストーリーも上手く出来ていて素晴らしいが、櫛職人の発する叡智を以上ピックアップしてみた。
なにごとにも通じる真理だと思う。