百田尚樹「プリズム」(幻冬舎文庫)

久しぶりの百田尚樹ワールドを楽しむ。
「プリズム」(幻冬舎文庫)を読了。
毎回全く異なった作品を創作するという志をもったこの作家は、今回は「多重人格」をテーマとした。

プリズム (幻冬舎文庫)

プリズム (幻冬舎文庫)

光には色はないが、プリズムを通すと、屈折率の違いから虹のように様々な色に別れる。人間の性格も、光のようなものかもしれない。
普通は様々な面を持ちつつも人格は統一されているが、なにかの原因(この場合は異常な虐待)で様々の異なった人格がひとりの人間の中に出現する。
ひとりの人間の肉体をかわるがわる支配する。異なった人格同士は互いに知っていたり、知らなかったりする。多重人格の病名は解離性同一性障害だ。

32歳の既婚の女性主人公はその中の完璧な理想の男性と恋をする。彼は実際には存在しない男である。報われるはずのない恋である。最後は統一された人格の中にその相手は吸収されていく。報われたのか、報われなかったのはは判然としない。
一つの肉体の中に宿るいくつもの人格の生成と消滅が深い共感とともに描かれている不思議な物語である。

この本の末尾に「参考文献」が並んでいる。ここに創作のヒントがある。
多重人格に関する本が20冊と、早川書房のミステリー小説7冊である。
本文中の多重人格(解離性同一障害)に関する登場人物による的確な説明は、20冊の本に依っている。
また、物語自体はミステリー小説をヒントにしていると思われる。
「24人のビリー・ミリガン」「ジェニーのなかの400人」「17人のわたし ある多重人格女性の記録」「「私」が、わたしでない人たち」「記憶を書きかえる--多重人格と心のメカニズム」「シビル--私のなかの16人」。

「ボックス!」「影法師」「モンスター」など、この作家のエンターテイメント性の濃い未読作品を読んでいきたい。