池井戸潤「銀翼のイカロス」を読了

池井戸潤銀翼のイカロス」を読了。

銀翼のイカロス

銀翼のイカロス

半沢直樹が主役のビジネス痛快小説。
経営危機に瀕する巨大航空会社「帝国航空」を巡る人々が織りなす波乱万丈のストーリー。
「債権放棄」を巡る日本航空の破たん時のごたごたを想いだしながら読んだ。

主役の半沢の勤める東京中央銀行の中野渡頭取は、政治家と政府系銀行、帝国航空再生タスクフォースとの駆け引きの中で決断を迫られる。その時の述懐が読者の心に響く。
「信用は一日にしてならず。しかし失墜するのはあっという間だ」
「我々が間違わなければ、必ず気持ちはひとつになれる。そのためには、決して逃げてはいけない。他人に転嫁することなく、真摯に全てを打ち明け、そして責任を果たしていくことが重要だ。若い行員たちの将来のために。この銀行の未来のために。それこそが我々経営者たる者の覚悟の在り処であると思う。」
「頭取でなくなっても、私はバンカーであり続けるだろう。バンカーである以上、常に何かと戦っていなければならない。我々に休息などない」

作者の池井戸は、銀行に働く人々や、帝国航空にも愛情を持って、書き進める。
「搭乗ゲートまで客室乗務員が誘導に出ていましたよ。変わってきているんじゃないですか」
「帝国航空を政治の道具にし、挙げ句。10億円のタスクフォース費用まで同社につけ回す。こんなバカな話がありますか」
「OBの企業年金問題もカタがつきそうだし、社員や経営陣の意識だって変ってきている。帝国航空は変われるはすだ」

「おもしろい、銀行員人生だったなあ。愉快に働かせてもらった」という先輩に、「オレも、いつか最後に、そういってみたいですよ」と半沢は本気で言う。
「ひっそりと銀行を去ろうとも、この男が生きてきた道のりは尊く、そして光に輝いている。そのことを半沢は知っている。かくてまたひとり、勇者は消えゆき、後に伝説が残る。それを引き継ぐのがオレの使命だ。いま半沢は、はっきりとそう胸に誓ったのであった。

池井戸潤のビジネス小説は、組織で真面目に働く人々や、彼らが属す組織そのものを愛情を持って描き出す。
不正と保身に走る、どこにでも巣食っている人間には鉄槌を下すが、基本は日本のビジネスマンを応援する。
それがこの人の小説が心を打つ要因だから、読後感が爽やかになる。