バートランド・ラッセル「幸福論」--偉大なるコモンセンス

20世紀最高の知性と呼ばれたイギリスのバートランド・ラッセル(1872−1970年)は、98歳の長寿だった。哲学者、思想家、平和活動家であり、さらに80歳で4度目の結婚をし、核廃やベトナム戦争反対運動を展開し、89歳のときには核兵器反対の座り込みをして7日間の抑留にもあっている。クールヘッドとウオームハートを兼ね備えた一流の人物だったということだろう。

ラッセル幸福論 (岩波文庫)

ラッセル幸福論 (岩波文庫)

そのラッセルが58歳の時に書いたのが1930年の「幸福論」を読了。
人はみな周到な努力によって幸福になれるという信念に基づいて書かれている。
経験と観察によって確かめれた「常識」を述べている。

第一部は「不幸の原因」をあげている。競争、退屈、疲れ、ねたみ、罪の意識、被害妄想、世評、、などである。

第二部は「幸福をもたらすもの」として、熱意、愛情、家族、仕事、興味、努力とあきらめをあげ、最後に幸福な人という章を設けている。

  • 仕事を面白くする主な要素は、技術の行使と建設である。熟練を必要とする仕事はすべて楽しくすることができる。このとき必要な技術は、変化に富むか、無限に向上させうるものでなければならない。建設は次の性向へと続いていくから行き詰まることはない。偉大な建設は最大の満足を与えてくれる。
  • 仕事以外の興味をたくさん持って、仕事を忘れるべきときに忘れよう。
  • 中庸は面白くないが真実の教義である。極端を避けよ。努力とあきらめのバランス、釣り合いの感覚を保とう。
  • 幸福は外部と内部に依存している。食と住、健康、愛情、成功、尊敬などが不可欠の条件だ。

この本の中で感銘を受けたところを抜き出す。

  • 教育は楽しむ能力を訓練することにある。文学、絵画、音楽などに見識のある楽しみを見いだせるのが「紳士」のしるしの一つだった。
  • 幸福には二種類ある。地味なものと凝ったもの、動物的なものと精神的なもの、感情的なものと知的なもの、、。
  • 安心感をいだいて人生に立ち向かう人は、不安をいだく人よりも各段に幸福だ。この安心感を生み出すのは、人から受ける愛情である。

優れた言葉を抜き出そうとすると、そのために線を引いた箇所は多くなかった。
唸るような名言は少ない。淡々と幸福への処方箋を書いている。
「偉大なるコモンセンス」と呼ばれたラッセルらしい。

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このため、書斎で書かねばならない文章や、今後のための勉強に時間を割くことができた。「熟練と建設」に満ちた時間を過ごした。ラッセルのいう幸福な時間だろう。