オーディオブック「人間の叡智」(佐藤優)

通勤の往復を中心とした移動中に6時間弱のオーディオブック「人間の叡智」(佐藤優)を聴き終わった。読了というのかどうか。これは聴読という。
メッセージは頭に入ったが、大事なところに線を引いたりメモを書くことはできないので、kindleで電子版を買って、気になったところに線を引く作業を終えた。このスタイルは復習にいい。結局、紙の本は買っていない。

人間の叡智 (文春新書 869)

人間の叡智 (文春新書 869)

佐藤優という稀有な能力の持ち主の知的生産性は極めて高い。その能力で現在の読書界を席巻している。
鈴木宗事件の国策捜査に関連して背任にあたると起訴されて、2009年6月30日日に最高裁で懲役2年6か月(執行猶予4年)の有罪判決が確定した。その結果、外務省職員の身分を失い、2013年6月30日に執行期間が終了した。この間ほぼ10年の歳月が経った。佐藤氏は2005年の「国家の罠--外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社)でデビューし職業作家となった。そして10年が経った。

2012年7月に書かれたこの本は過去20年にわたって構造的な停滞の中にある日本の生き残りのための考え方を示そうとしたものだ。
新帝国主義下にある世界の中では、インテリゲンチャー(知識階級)は、断片的な知識をつなげて「物語」にする力が必要だという。
新しいストーリーを生み出す能力である。
佐藤氏は膨大な蓄積とその上に立った思考力に支えられており、ズバッと本質をえぐりだした言葉を並べることができ、読者は腑に落ちていく快感を得ることができる。
10年ほど前からこの人の著作に親しんできたが、今回の「人間の叡智」にも感銘を受けた。

  • 日本の官僚は恐ろしく低学歴。博士号や修士号を持っていない。後進国型の教育システムになっているからだ。
  • 社会の真ん中より少し下のくらいの層がどんどん貧乏になっていく。それはグローバル時代の反映だ。不況や雇用の問題はなかなか解決しない。正規雇用派遣労働者外国人労働者、就職難民という4つの労働者階級ができて、賃金の下方柔軟性ができてしまった。
  • 帝国は、国民国家を超えている。格差と差異が必要だ。日本には沖縄という地域が民族を超える原理で統合できていない。普天間問題を強行すると国家が割れる可能性がある。
  • TPPは自由貿易ではない。保護主義だ。アメリカと日本を中心とするブロック経済で中国とは壁をつくるしくみ。
  • 中国は中華民族というネーションビルディング(民族形成)をしている最中だ。それには敵が必要であり、日本を選んだから次から次へと問題が出てくることになる。これはうまくいくか。たぶんできない。
  • 西欧近代は実念論(みえないが存在するものがあるというリアリズム)から唯名論(目に見えるものしか存在しない)に移行している。
  • 民主主義の起源は良きものを選ぶんではなく、悪しきものを排除することにある。陶片追放
  • サンフランシスコ講和条約で日本は南樺太と千島列島を放棄している。千島列島には国後、択捉の南千島も含まれると吉田全権は言っている。1956年の日ソ共同宣言では「歯舞、色丹を日本に引き渡す、平和条約の締結後に引き渡す」となっている。国後、択捉は交渉する。二島プラスアルファ」。1993年の細川・エリツィンの東京宣言では「四島問題を解決して平和条約を締結」となった。歯舞、色丹を係争地にして譲歩してしまった。これでソ連も逆に国後、択捉も係争地として認めた。
  • 北方領土で緊張関係があると津軽海峡宗谷海峡を使えなくなるそうすると北極海航路を商業に使えない。北方領土の日悲軍事化という選択肢もある。
  • イランやサウジなどが核を持つような時代になると日本も持たざるをえなくなる。ただし核不拡散体制を最初に崩す国になってはならない。やるならやむをえずという形をとる。
  • 日本の国体は日米安保。だから保守派は親米保守になった。日本語をローマ字にという考え方があった。それまでの当座用いるという意味で字数の少ない当用漢字があり、また常用漢字に戻った。
  • 日本に天皇陛下は絶対に必要。ないと日本は崩壊してしまう。
  • 知的エリート、パワーエリートが国際基準のインテリになり、ノブレス・オブリージュを果たせるか。
  • 自由と民主の折り合いとして友愛(博愛)がでてきた。仲間意識を育てるのは中間共同体がいる。
  • 帝国主義は収奪のために常に「外部」を作りだす。外国と国内の差異も必要。国家という枠で守らなければ富は国外に流出する。金儲けに成功したものは外国に出ていく。
  • 民主党は約束はしたがそれを守るとな約束していないというルールを導入した。
  • 読書人階級が必要。総人口の5%。日本では500万くらい。古典に二つは親しめ。ファウスト
  • 言(論理)。心(良心)。力(実現)。行為(行動)。
  • 新帝国主義の時代に必要なのは小説的な教養。読書階級は小説、歴史書などの物語、思想書や哲学書などの古典を読む人。
  • すべては成長の問題になる。ゼロ成長で安定するためには身分を固定しなければならない。資本主義ではできない。
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帰りに書店で本日発売の「文学界」(文芸春秋社)を購入。又吉直樹の「火花」を読み始める。

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1月7日が命日。

  • 岡本太郎:他人が笑おうが笑うまいが、自分の歌を歌えばいいんだよ。