佐藤優「知性とは何か」(祥伝社)

佐藤優「知性とは何か」(祥伝社)を読了。

知性とは何か(祥伝社新書)

知性とは何か(祥伝社新書)

反知性主義は「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」と定義している。佐藤は、安倍、麻生、橋本、ヒトラーの系譜を反知性主義とする。
自分が欲するように世界を理解するので、不適切な発言や行動をしたという自覚がなく、聞く側の受け止め方に問題があるとしか認識できない。
反知性主義の克服は、「他人の気持ちになって考えることができる」ようになることが第一歩である。

この本の中で佐藤は、安保法制について野党やマスコミの見方と違い次のように言っている。

  • 閣議決定で厳しい縛りがかかり、以前よりも自衛隊の海外派遣は難しくなった。
  • 憲法上、許される自衛の措置は自国の防衛のみに限られる。いわば個別的自衛権に匹敵するよな事態にのみ発動されるとの憲法上の歯止めををかけ、憲法の規範性を確保した。(公明党山口代表)
  • 国連の集団的安全保障措置など国際法上合法的な措置に憲法上の制約は及ばないという考え方を採用しなかった。(山口代表)

国内法で集団的自衛権の行使を規定する場合は、憲法改正が必要になり、国連の集団安全保障措置による自衛隊の覇権が不可能になった。イラクや中東で自衛隊が戦うことはない。
以上が佐藤の見立てである。
公明党が防波堤となっているということになる。

安保法制は与党協議で複雑骨折し、個別的自衛権でやれるものを集団的自衛権と呼んでいるに過ぎなくなる。今回の国会論戦の過程で、国民の意識が高くなり、憲法改正のハードルは一層高くなってしまうという皮肉な結果となったということだろう。

この本の中で柄谷行人の主張を紹介している。
憲法九条は米軍占領時に強制されたものだと批判されてきたが、朝鮮戦争に際してアメリカが日本に憲法改正再軍備を迫ったとき、日本人はそれを斥けた。だから憲法九条は日本人自身が作ったものだといってよい。

おすすめの書。
ユンゲル・ハーバーマス「コミュニケイション的行為の理論(上中下)(未来社
千野栄一「外国語上達法」(岩波新書
中野剛志「世界を戦争に導くグローバリズム」(集英社新書
野矢茂樹「論理学」(東大出版会
澤田昭夫「論文の書き方」(講談社学術文庫
山内昌之「民族と国家--イスラム史の視角から」(岩波新書
柄谷行人「遊動論--柳田国男と山人」(文芸新書)