村上龍「オールド・テロリスト」

村上龍「オールド・テロリスト」を読了。

オールド・テロリスト

オールド・テロリスト

村上龍という作家は、骨太の大きな小説を書く。
時代の病巣と、それを解決しようとする人たちの姿を優れた想像力と高い構想力を用いて物語に構成していく。

「この国にはすべてがある。しかし希望だけが無い」という言葉が話題になった「希望の国エクソダス」では不登校の中学生たちが北海道に半独立国をつくった。
そして、今回の主人公は、反対の老人である。「希望の国、、」と同じテーマだが、主人公を変えるとどうなるか。

70代から90代の老人たちが、テロという手段で、日本を変えようと立ち上がる物語。
文芸春秋に2011年6月号から2014年9月号まで連載したものに加筆して出来あがった本だ。
村上龍が想像力を駆使して東日本大震災の直後から日本が激変する3年間の年月を書き続けた物語。
時代はイチローの特別引退記念試合と2020年の東京オリンピックの間という近未来の設定だ。
テロを行う老人たちのグループは旧満州国の亡霊たちで、戦後のシステム全体に影響力を持っている。彼らは88ミリ対戦車砲を持っていて、それで原発の使用済み燃料棒プールを爆破し、日本を焼け野原にしテリセットしようとたくらむ。数千本の核燃料棒は原子炉10基分に相当する。50センチほどの薄いコンクリートの壁に囲まれているが数百度の熱で崩壊する。その対象はまず静岡の浜岡原発である。
落ちこぼれで家族も失ったどうしようもない雑誌記者くずれの主人公は、ふとしたことからこのテロリスト集団に巻き込まれていく。
テロリストたちの周到な計画は、最後はアメリカ海兵隊のドローンという無人兵器で敗れるが、実はまだ88ミリ対戦車砲は二基がどこかに残っているという設定で、その後の物語の続きが暗示される。そして不思議なことに、この過程で主人公は最後にテロの首謀者から「あなたは本物の記者だ。こちらも命を賭けて頼まないと書いてくれないだろうと、最初からそう思っていた。セキグチさん、、、」と言われ、言葉を失う。そして、すべてがわかった時、「ミツイシさん。おれは、書きますよ」と決意するのだ。

この小説では村上龍が見る現代日本の病巣が描かれていて、同感するところが多かった。

  • 影が薄いという特徴は、今の若者全体に共通したものかもしれない。、、エネルギーやパワーを外に向かって示すことが、日本人の精神性から完全に消えつつあったのだ。
  • 問題点や疑問点を示さず、犠牲者の葬儀や遺族のコメントなど情緒的な報道しかできない日本のメディアの罪は大きいとおれは思う。この国のメディアは、なんて悪い人なんでしょうと、なんて可哀相な人たちなんでしょうという二つのアプローチでしかニュースを作れない。
  • マスコミは、、、単に能力がないのです。事実を報ずる能力がない。世界的にパラダイムが変わってしまっているのに、気づくことができない。
  • 中国共産党と同じく、中流層の没落で拡大し続ける経済格差、増税、崩壊寸前の年金、社会保障などによって爆発寸前の怒りを逸らす対象として、中国を利用してきた。
  • 原発と国際テロが絡む事件で、真実を暴こうとするメディアはもう存在しない。いや、もともと存在しなかったと言ってもいい。
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