福島清彦「日本経済の「質」はなぜ世界最高なのか」(PHP新書)

福島清彦「日本経済の「質」はなぜ世界最高なのか」(PHP新書)を読了。

日本経済の「質」はなぜ世界最高なのか (PHP新書)

日本経済の「質」はなぜ世界最高なのか (PHP新書)

多摩大の非常勤を長くやっていただいた福島先生の近著。

伝統的に用いられているGDP統計は生産高を示すが、暮らしの質を重視すべきであるという2009年のスティグリッツ報告を端緒とする世界の流れを紹介している。「世界も社会も経済も変わってしまったのに、計測指標がそれに歩調を合わせていなかった」とフランスのサルコジ大統領の発言は納得感がある。確かにそうだ。

暮らしの質は、主観的な満足度、客観的な質、経済的な幸福度の公正さ、としている。健康、教育、個人的諸活動、政治への発言と統治、社会的なつながり、環境条件、個人の身の安全、経済的な不安定の8項目で表現される。

そしてGDPを越える指標として4つの資本を示ししている。それは人的資本、生産した資本、社会資本、天然資本で、日本はすべての高い水準であるとの数字を紹介している。特に計りにくい社会資本については世界一だと推計している。

  • 人的資本:人口の量と質:育児。住宅。学歴。教育予算。健康資本。
  • 生産した資本:民間設備投資。政府投資。
  • 社会関係資本:共助支援。
  • 天然資本:農業への新規参入。

「個人の幸福度」の観点から、「より高い所得」を越える大きな目標を立てるべきであり、それを日本が率先して世界を牽引すべきというのがこの書の主張である。
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「名言との対話」4月4日。杉村春子

  • 「きのうも明日もないわ。今日をしっかり生きるだけ」
    • 遊女の私生児として広島県の色町に出生。材木商の養女にもらわれ育つ。女優としては東山千栄子、初代水谷八重子に次いで3人目の文化功労者に選ばれている。4月4日、91歳で昇天。
    • 二度結婚をしているが、夫となった5歳下の医師、10歳下の医師はそれぞれ結核で亡くなるという悲劇を経験している。
    • 1995年には文化勲章の内示を受けたが、「勲章は最後にもらう賞、自分には大きすぎる。勲章を背負って舞台に上がりたくない、私はまだまだ現役で芝居がしていたいだけ」「戦争中に亡くなった俳優を差し置いてもらうことはできない」として辞退している。
    • 「役者に定年はない」という杉村春子は、70年の長きにわたって映画とテレビの世界で活躍した。その間、高峯秀子、山田五十鈴岡田茉莉子勝新太郎若尾文子吉永小百合奈良岡朋子樹木希林など演劇人、映画人の大目標となる女優であった。亡くなる直前まで舞台に立ち、老年で若い役を演じている。
    • 冒頭の言葉は80代半ばの言葉である。確かに過去も未来もない。現在をしっかり生きよという名女優の覚悟が伝わってくる。