「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」展。鹿島茂『大読書日記』(青土社)。

東京都美術館で開催中の「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」展を見てきた。

この美術館は旧朝香邸(朝香鳩彦・允子)で、アールデコ様式の粋をあつめて1938年の竣工した。終戦後は外相、首相の吉田茂が1947年から1954年まで「目黒の公邸」として使用、退任後は「日本で初めての迎賓館」となった。1983年に東京都庭園美術館として生まれ変わった。『旧朝香邸物語』を読了。

旧朝香宮邸物語―東京都庭園美術館はどこから来たのか

この別館で「鹿島コレクション フランス絵本の世界」展が開催されている。フランスにおける絵本文化の一端がのぞける企画であり、鹿島が収集した絵本が並んでいる。このコレクションは「時代を画するか否か」という一点で集中と選択が行われているとのことだが、歴史的資料としての収集が半端ではないことを感じた企画展だった。メモも取り、企画展の冊子も購入したのだが、私の関心は「鹿島コレクション」をつくった鹿島茂にあるので、彼の本を数冊購入してきて読んでいる。

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鹿島茂『大読書日記』(青土社)を読了。

大読書日記

645ページの大著。2001年から2015年までの15年間に書いた「書評」と「日記」が結びついて一書をなしている。蓄積の重みを感じる本だ。20世紀から21世紀の変化がうかがわれるかもしれないと鹿島は述べている。

100年単位の世紀が変わるには15年かかる。これが鹿島茂の時代観だ。16世紀は1515年に中世が終わり西方ルネッサンス宗教改革の時代へ、ルターの宗教界改革は1517年から。17世紀は1610年から混乱の時代へ。18世紀は1715年のルイ14世の死でロココ啓蒙主義の時代、個人主義自由主義。19世紀は1815年のワーテルローでのナポレオンの敗戦で、民主主義と実証主義の時代へ。20世紀は1914年の第一次世界大戦の勃発から。

この本が出た2015年6月には変化の実体は不明と書かれている。2018年の現在から振り返ると、2100年の金正恩北朝鮮、2012年の周金平の中国、2014年のロシアのクリミヤ編入、2017年のトランプのアメリカ、、、。21世紀は帝国主義への回帰と総括できるかもしれない。となると、鹿島茂の「新世紀15年説」は説得力がある。

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「評伝を書くには、刑事のアリバイ崩しと同じように、自伝に登場する人物の年譜を洗って時代と場所の整合性を調べる必要がある。、、マイナーな作家でも画家でも伝記が出たら買っておくに限る。」。また鹿島は海外への長い機中では伝記を読む。新書なら往復で4人の人物と知り合えるとのことだ。

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この本の中に、私が読んだ本がでてくる。いずれも評価が高い。同感だ。

ニクソン『指導者とは』と『昭和という時代を生きて 氏家 齊一郎』だ。

以下、興味を持った本。

米原謙『徳富蘇峰 日本ナショナリズムの軌跡』(中公新書

・『吉本隆明「食」を語る』(朝日文庫

・『昭和モダニズムを牽引した男 菊池寛の文芸・演劇・映画エッセイ集』(清流出版)

・『天才・菊池寛 逸話でつづる作家の素顔』(文藝春秋

・島地勝彦『甘い生活 男はいくつになってもロマンティックで愚か者』(講談社

佐々木克彦監修『大久保利通』(講談社学術文庫

 

 

「名言との対話(平成命日編)」4月1日。大川ミサヲ「まあまあ幸せ」

大川 ミサヲ(おおかわ みさお1898年明治31年3月5日 - 2015年平成27年4月1日は、長寿日本人女性。

19世紀、20世紀、21世紀の足掛け3世紀を生きた人。102歳の時に盆踊りの際に転倒し足を骨折したが、それ以外に大病を患ったことはない。110歳まで、車椅子を使わずに歩くことができた。116歳になった時点で、子が3人で2人90歳を越えて存命中、孫が4人、曾孫が6人。実家は呉服屋、ゴム製造会社を経営していた夫は1931年に亡くなっており、女手一つで3人の子を育てた。117歳で昇天。

2013年、114歳の時にギネス社に女性の世界最高齢として認定され、その後、115歳になり、男女を通じた世界最高齢となっていた。アメリカの学術団体「ジェロントロジー・リサーチ・グループ」によって世界最高齢であると認定された。人類史上の長寿20位入りを果たした。

大阪の施設での115歳の日常を取材したサイトがある。「6時20分起床。7時55分食堂で朝食。黒糖ロール、ジャーマンポテト、メロンゼリー、牛乳。11時50分昼食。焼きそば、シューマイのあんかけ、中華スープ、塩昆布入りおかゆ、オレンジ。14時30分職員の介助で入浴。15時おやつ。砂糖、ミルク入りコーヒー、栗まんじゅう。17時50分夕食。カレイの煮物とぬたあえ、ご飯、みそ汁。18時40分支援者に贈る色紙にサイン。19時インタビューに答える。21時半個室で就寝」。充実した食生活を楽しんでいる姿がみえる。

大川ミサヲは長寿の秘訣を聞かれて、「美味しいものを食べること」「ゆっくり暮らすこと」「よく寝ること」をあげている。大川の日常そのままだ。19世紀末の明治から始まり、大正、昭和、戦後、平成、そして21世紀初頭までという気の遠くなるような117年の人生には、並大抵でない苦労があっただろうと推察される。人生を振り返って「まあまあ幸せ」と総括していることに安堵を覚える。迫り来る人生100年時代にも多くの人がこの言葉を吐けるようにしたいものだ。