山崎史郎『人口減少と社会保障』ーー現在の我々が直面する課題への包括的な解答がある

山崎史郎『人口減少と社会保障』(中公新書)を読了。

著書はミスター介護保険と呼ばれ、地方創生総括官もつとめた。その分析と提言だ。厚労省から始まるキャリアにおいて、介護保険、若者雇用対策、社会保障・税一体改革、生活困窮者自立支援、少子化、地方人口減少対策である地方創生に取り組んできた実務家である。

家族の変化と雇用システムの変化の行きつく先が人口減少だ。医療、介護、年金、子育て、社会福祉などの各論のもとになる社会保障の全体像をにらんで基本構造を明らかにしようとしている。

第1章:家族の変化、雇用システムの変化が、晩婚化と非婚化となり、人口減少時代時代に突入した。第2章:自立と連帯の基本理念のもと、個別対処という縦糸と国民皆保険・皆年金という横糸が基本構造だった。

第3章:排除、孤立、分断、そして社会の解体という負の連鎖を食い止めるためには、「つながり」を強めていくことが重要課題だ。第4章:「全世代型」社会保障への転換を提言。高齢期支援中心から、子育てを含む全世代型。第5章:人口減少への適応として、人材・すまい・地域組織などの社会資源の縮小に対応するために、効率化と多様化の視点から社会保障を大きく転換すべきだ。

終章:日本経済の成長が前提。社会基盤として「人材(サービス改革)・地域組織の再編」と「すまいの保証(空き家の利活用)」を整備する。雇用面では「働き方改革」「正規化の推進」「高齢者就労促進のため制度見直し」を図る。その上で、給付面として「子育て支援の強化」と「地域セーフティネットの構築」と「高齢期就労・地域活動への参加促進」という具体策を講じる。そのために負担面として「社会保障の基盤の強化」「世代間と世代内のバランスの調整」「高齢者世代内の支え合い強化」を行う。それが、「持続可能な社会の実現」「地域共生社会の実現」「生涯現役社会の実現」という目標に到達する。その結果、全世代型の社会保障への転換が完了する。 

 この本には、政策パッケージとしての全世代型社会保障の全体像が記されている。そして国民的合意形成のために、国民が理解し、納得し、賛同していくという一連のプロセスが重要だ。立案から制度施行まで6年間を要した「介護保険」の場合の合意形成のやり方が参考になる。この本には、現在の我々が直面する課題への包括的な解答があるように思う。

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早朝:ヨガ1時間

午後:ジム:ストレッチ。ウオーキング45分・筋トレ。ストレッチ。バス。2時間。

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「名言との対話」6月20日宗左近「山がはじけた 海がさかまいた 吊り橋はねた 青空さけた きみたち死んだ おれたち生きた 」

 宗 左近(そう さこん、1919年5月1日 - 2006年6月20日)は、詩人評論家仏文学者であり翻訳家

小倉中学、一高、東大哲学科卒。海軍への入隊、招集があった時には、精神錯乱を装って二度も逃れている。後に、法政大学、昭和女子大学教授。

ペンネームの宗左近は、「そうさ、こんちくしょう!」という経験からとった。50冊に及ぶ詩集、100冊を越える著書を刊行した。1987年から亡くなる2006年までの間は、年に1冊以上のペースで出版していたという多作の詩人である。

詩集に『宗左近詩集』『続・宗左近詩集』『縄文連祷』『藤の花』『青氷柱』『透明の蕊の蕊』『宙宇』(以上、思潮社)。評論に『日本美 縄文の系譜』『宮沢賢治の謎』『詩のささげもの』(以上、新潮社)、『日本の美 その夢と祈り』(日本経済新聞社)などがある。

1994年、詩集『藤の花』で第10回詩歌文学館賞を受賞。2004年、第1回シカダ賞(Cikada Prize、生命の尊厳を表現する東アジアの詩歌人を顕彰する賞。スウェーデンが制定)を受賞した。

 宗左近が選んだ詩とその解説書『あなたにあいたくて生まれてきた詩』(新潮文庫)を読んだ。以下、印象に残った詩をあげてみる。

「ルームライトを消す スタンドランプを 消す そうして 悲しみに灯を入れる」

「おばあちゃん おはなみにいって さくらのはなが ごはんのうえに おちてきたら どうしたら いいの」

「ふるさとには なんにも ない 山と 川と 空のほかには だけど 母さんがいる ふるさとには なんでも ある 夢と 友と 思い出がある だけど 母さんが いない」

2014年、生まれ故郷である北九州市戸畑図書館内に「宗左近記念室」がオープンした。2016年、市川市に詩碑が建立された。2017年、「宗左近・蕊の会」が設立され活動を続けている。市川市の名誉市民でもあることからわかるように、深く地元に影響を与えた人だった。

宗左近岡本太郎縄文土器論』に衝撃を受け、縄文土器に強く惹かれていた。宗左近が作詞した縄文ラプソディの「滝壺舞踏」の映像をみた。ピアノの伴奏にのった力強い男性合唱と、エネルギーに満ちた詩に感銘を受けた。

「山がはじけた 海がさかまいた 吊り橋はねた 青空さけた きみたち死んだ おれたち生きた   石が泳いでくる 雲が喘いでくる 星が溺れてくる 月が割れてくる、、、」。

鎮魂の「祈り」である。

 

あなたにあいたくて生まれてきた詩 (新潮文庫)

あなたにあいたくて生まれてきた詩 (新潮文庫)