「知研フォーラム」346号ーー「アート」「小説」「旅」「安保」

「知研フォーラム」346号が年末に届いた。

  • 日程:50周年事業「2020年10月17-18日」。総会「2020年3月28日」。
  • 講演録 山本冬彦「アート普及と若手作家支援」
  • 講演録 八木哲郎「情報積み重ね式小説作法」
  • 連載  久恒啓一「人物記念館の旅。群馬・新潟」
  • 連載  奈薗乙三「いいたい砲台」
  • 提言  猪俣範一「皆で考えよう。国家安全保障」

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私の連載投稿。11ページ。2019年の8月末から9月の3泊4日の旅。7館。

群馬県渋川市の日本シャンソン館(芦野宏記念館ではない)。群馬県沼田市の生方たつゑ記念館(歌人)。群馬県水上町の塩原太助記念館(大商人)。新潟県魚沼市宮柊二記念館(歌人)。新潟県柏崎市西山の田中角栄記念館(政治家)。新潟県出雲崎町良寛記念館(僧侶、歌人漢詩人、書家)。新潟市会津八一記念館(歌人、学者、書家)。

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梅棹忠夫著作集プロジェクト進行中。今日はだいぶ進んだ。明日も続けよう。

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「名言との対話」1月4日。アルベール・カミュ「人生それ自体に意味などない。しかし、意味がないからこそ生きるに値するのだ」。

アルベール・カミュAlbert Camusフランス語: [albɛʁ kamy] 1913年11月7日 - 1960年1月4日)は、フランス小説家劇作家哲学者

『異邦人』、『シーシュポスの神話』などで注目され、戦闘的なジャーナリストとして活躍した。『カリギュラ』『誤解』など劇作家としても活動した。戦後に発表した小説『ペスト』はベストセラーとなり、『反抗的人間』において左翼全体主義を批判し、反響を呼んだ。『転落』発表の翌年、1957年、史上2番目の若さでノーベル文学賞を受賞した。そして交通事故で46歳で死去する。

初めて『異邦人』を読んでみた。文庫版でそれほど時間はかからなかった。

主人公のムルソーは、淡々とした、野心もない、無感動な人物として描かれている。それがわかる言葉をあげてみよう。「別にどうとも思わないが、なかなか面白い話だ」「何意味もないことだが、恐らく愛していなと思われるーーと私は答えた」「実をいうとどちらでも私には同じことだ、と答えた」「いっさい、実際無意味だということを、じきに悟ったのだ」「私は深くママンを愛していたが、しかし、それは何ものも意味していない」、、、。そのムルソーが「太陽のせい」としか説明できな動機でピストルによる殺人を犯す。

第二部では刑務所と裁判法廷でのシーンだ。自分と、自分をめぐる常識のかたまりのような人々を、まるで人ごとのように冷静に観察している。そのムルソーは訪れた司祭に対し、「君は死人のような生き方をしているから、自分が生きていることにさえ、自身がない。私はと「いえば、両手はからっぽのようだ。しかし、私は自信を持っている。自分について、すべてについて、君より強く、また、私の人生について、来たるべきあの死について。そうだ、私にはこれだけしかない。しかし、少なくとも、この真理が私を捕らえていると同じだけ、私はこの真理をしっかり捕らえている」と怒りを爆発させる。

死刑の執行を待つ日々。「夕暮れは憂愁に満ちた休息のひとときだった。死に近づいて、ママンはあそこで解放を感じ、全く生きかえるのを感じたに違いなかった。、、、私もまた、全く生き返ったような思いがしている。、、、これっほど世界を自分に近いものと感じ、自分の兄弟のように感じると、私は自分が幸福だったし、今なお幸福であることを悟った」。

カミュは後に、「、、お芝居をしないと、彼が暮らす社会では、異邦人として扱われるよりほかはない、、。、、なぜ演技をしなかったか、それは彼が嘘をつくことを拒否したからだ。、、、」と説明している。常識という条理に身を任せる生き方は死人の生き方だ。人間は不条理なものなのだ。人間は条理だけで動くものではない。動機なしに殺人も犯すことがある。社会は理性で構成されているようにみえるが、その社会を構成する人間は不条理に生きているのだ。常識を拒否すれば異邦人と呼ばれるが、本当は異邦人の方が本当に生きているのではないか。それがカミュのメッセージだろう。

この本を読んでもうひとつ思ったのは、死を意識すると、生を強烈に感じるということだ。1968年から1969年にかけて連続ピストル射殺事件を引き起こした永山則夫という刑死者を思い出した。 「このような大事件を犯さなければ、一生涯唯の牛馬で終わったであろう。人間ゆえ、思考可能な人間ゆえ私は知ってしまった」という。「動機なき、理由なき殺人」を犯した永山則夫は、その事件を起こした故に牛馬ではなく、「人間」になったという一大パラドックスの考えさせられるドラマ。また、難病で死の宣告をされた人の心境、克服した人の生に対する感覚もムルソーに近いのではないか。

以下、他の作品などの中でのカミュの言葉から。

「人間は現在の自分を拒絶する唯一の生きものである」「重要なのは、病から癒えることではなく、病みつつ生きることだ」「人間が唯一偉大であるのは、自分を越えるものと闘うからである」「無益で希望のない労働以上に恐ろしい刑罰はない」。

8つ年上の サルトルと双璧のフランス文壇を代表する文化人だったカミュの思想の一端をようやく知った。人生という長いスパンで個々の行動や感情を意味付けをせずに、現在だけを生きる、神の存在を否定する不条理な人間像の提出は、大きな「事件」であった。 冒頭に掲げた「人生それ自体に意味などない。しかし、意味がないからこそ生きるに値するのだ」という問題提起をどう理解するか。

異邦人 (新潮文庫)