12月に読むべき本24冊。さて、今月はどんな出会いがあるか。

「名言との対話」の12月分の読むべき本24冊。どんな出会いがあるか、楽しみだ。

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今年は「戦後編」だ。来年、2021年の構想を練っている。今考えている案が成立するか、1月分を試している。何とかやれそうな感じになっている。もう少し考えよう。

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しばらく閉館していた東京都立大学の国際会館のルベソンヴェールで食事。

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「名言との対話」12月1日。海音寺潮五郎「士有所不為──士は為さざる所あり」。

海音寺 潮五郎(かいおんじ ちょうごろう、1901年明治34年)11月5日 - 1977年昭和52年)12月1日)は、日本小説家作家

1929年、中学校の教師時代に、「サンデー毎日」の懸賞小説に当選。この時から海音寺潮五郎の筆名を使用する。1934年、専業作家となる。歴史上の記録である膨大な史料を用いて史実と虚構を峻別しながら、歴史の真実を描く伝記である史伝文学の復権をめざした。史伝文学は、歴史上の人物や事件を対象として作品を物語形式で記述する方式で、フィクションの要素を完全に排除するやり方だ。森鴎外の書いた「渋江抽斎」は、史伝文学の傑作である。

海音寺は「歴史はまず文学から入るべき」という考えを持っていた。史実のみを社会科学的に教えることは、歴史への関心を失くすという主張である。歴史の学び方はまず文学からという主張には賛成だ。文学、そして漫画、講談、アニメ、ゲームから学ぶのがいい。

1959年から「武将列伝」と「悪人列伝」を『オール読物』に連載する。100人から200人を想定していたが、武将列伝33人、悪人列伝24人の計57人で終わっている。これを時代順に並べれば日本の歴史になるという構想だった。

絶頂期ともいえる 1969年に引退宣言し、大好きな西郷を描く長編史伝『西郷隆盛』の完成、『武将列伝』、『悪人列伝』に代表される人物列伝の一層の充実、5部作『日本』の完成を目指した。「大長編史伝」の『西郷隆盛』全9巻という長編が絶筆となるのだが、1977年に死去し、全生涯書くことはかなわなかった。他の作品もいずれも未完成に終わった。代表作のほとんどは未完成に終わっているのが残念な気がする。

NHK大河ドラマでは、1969年の「天と地と」、1976年の風と雲と虹と」に採用された。また、史伝文学の復興に貢献し菊池寛賞を受賞。文化功労者にもなっている。

第3回直木賞した海音寺は、直木賞選考委員として司馬遼太郎を高く評価し、第42回受賞に貢献した。しかし司馬と同年の時代小説家・池波正太郎には厳しく、何度も低評価を与えている。「この人にやりたいという人が多かったので、ぼくは棄権することにした。今のところ、ぼくはこの人の小説家としての才能を買っていない。ぼくを見返すようなしごとをして下さい」として、委員を辞任している。海音寺の史実を踏まえた史伝志向と、江戸という時代に題材をとった想像を膨らませた池波の歴史小説との違いだろう。その後の池波正太郎の活躍は海音寺の指摘に応えたと言えるのではないだろうか。

『新名将言行録』(河出文庫)を読んだ。海音寺は、この本の中で自身を「ぼくは」と表現していて面白く感じた。986年生まれの源頼義から始まり、1533年の島津義久、1569年生まれの立花宗茂まで16人の武将を取り上げている。私の郷里の中津の殿様であった黒田如水については、不運な人であると慨嘆している。一流中の一流の人物で、運があれば天下を獲ったかもしれない。遅れてきた天才だったとし、如水の訓戒、遺訓、遺品などについて解説している。如水より二つ年上で秀吉に仕えた竹中半兵衛は、一代の策士であるとの評価だ。策士は俗欲がなく、従容とした風姿を持ち、策を立て見事に運ぶことが楽しいという人物が多く、その代表が如水と半兵衛という指摘だ。名将の言行録は、いかに生きるべきかに悩む人々の指針になるから、当時は争って読まれただろう。

冒頭に掲げた「士は為さざる所あり」とは、立派な人はいかなる目的のためにも、いかなる場合にも、きたないことをしてはならず、必ず手段を選ぶべきであるという意味でだ。嘘をつく、責任を回避する、人を裏切る、そういう卑劣なことをせずに、堂々と王道を歩めという戒めだ。

海音寺潮五郎に向き合う中で、人物列伝に連なる「史伝」というスタイルに関心を持った。考えて見れば、私のこの「名言との対話」も人物列伝という色合いが強い。書いていながら、ふと歴史を紀行をしている気持ちになることがある。日々書き続けて数千人、あるいは1万人に達した段階で、それを生年順か没年順に並べると、に日本現代史、日本近代史、あるいは日本史になる可能性がある。海音寺潮五郎からはヒントをもらった。 

 

新名将言行録 (河出文庫)