近代文学館。BUNDAN。ヨロン丼。大菩薩峠。

駒場日本近代文学館で「中里介山大菩薩峠』ーー明滅するユートピア」展。

 ほとんどの博物館、美術館が休館している中で、珍しく開いている文学館。訪問記はのちほど書く予定ですが、帰ってから、ずっといつか読まねばならないと思いながら、20冊というあまりの大部であり、「大菩薩峠」が鎮座している書斎の書棚から、負債のような本を手にしてみました。

 各巻の巻末にある「大菩薩峠と私」となずけるのがふさわしい文章が並んでいます。それぞれが語る大菩薩峠が面白い。

秋山駿馬「三度目の『大菩薩峠』。松本健一「『大菩薩峠』の記憶の意味」。尾崎秀樹「介山の平等観」。折原脩「ゼロとしての机龍之介」。横尾忠則「『大菩薩峠』装幀の由来」。志茂田景樹「峠の剣法」。西尾忠久「机龍之介と尺八」、、、。

これらをながめてみると、「どこから読んでも」よさそうなので、「大乗小説」の醍醐味を味わうために、後半から気楽に読むことにしましょう。 

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文学館のレストラン「BUNDAN」で、 ヨロン丼食べました。1988年に作家の森瑤子が奄美与論島にが別荘を持ち、小説「アイランド」を書いた。森瑤子は「デザートはあなたに」の中で、イワシと野菜が乗った丼を、乃理子「おいひい」、俊介「うめえ」と言い合いながら食べるシーンがある。それを再現したどんぶりです。確かに「おいひい」という気持ちが分かる気がしました。この大きな書棚と大量の本でデザインされ、文豪たちに因んだ食事を提供する「BUNDAN」はファンが多いようで、企画展は閑散としていたが、こちらは人が静かに本を読んでいました。

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「名言との対話」5月20日。太田敏郎「お風呂は人を幸せにする」

太田 敏郎(おおた としろう、1927年5月20日 - 2020年1月15日)は、日本実業家ノーリツ創業者。

姫路市生まれ。陸士と海兵に合格し海軍に入る。1950年に能率風呂商会、翌51年に能率風呂工業を設立し専務取締役。その後、ノーリツの専務取締役、社長、会長などを歴任。財界では、神戸商工会議所副会頭を務めた。

以上の経歴をみれば、順調のようにみえるが、さにあらず。創業社長でありながら、解任され、自重した後に、再び社長に復帰するという残酷物語がある。

1964年に取締役会代表取締役社長を突如解任され、専務に降格される。1967年には常務に降格となる。1968年には自身の解任を主導した後任社長が多数決で首になった。一緒にこの件を推進した専務に社長になってもらうが、この社長にも10年ほどやっているうちにおごりが生じて危機を迎える。1980年太田はとうとう社長に復帰する。クビになってから18年目だった。この物語は長く権力の座に胡坐をかいた者に巣食うおごりの怖さを教えてくれる。 自身の反省も含め、そう述懐している。

『お風呂は人を幸せにする』(神戸新聞総合出版センター)を読んだ。「風呂は人を幸せにする。わしの発明した能率風呂は日本一じゃ」という「能率風呂」の発明者・植松清次から特許権を買い取って事業を起こし、プロパンガスが普及する中、ガス給湯器の開発で成功し、家庭への浴室普及を促進した。その原点は海軍兵学校時代に、訓練後の入浴のお湯のおかげで生気を取り戻す経験をしたことだ。

この本で、太田は「株主資本主義」に反対する。従業員、協力会社、取引先、株主との深いつながりや支援のおかげで企業はなりたっているとの考えである。今でいうステイクホルダー資本主義だ。

 1995年1月17日の阪神大震災で本社が倒壊した。翌18日に東京で開く予定の全国代理店会に神戸から役員一同と必死でかけつけ「本社は倒壊したが子生産工場は大丈夫だ。商品は間違いなく送り届ける!」と宣言し、会社は生き残った。一瞬の判断が生死を分ける恐ろしさを知ることになった。

1994年からの神戸商工会議所副会頭時代には、神戸復興の象徴として「鎮魂と希望」の願いをこめて、「神戸ルミナリエ」の実現と継続に尽力している。大きな被害を受けた神戸に「明かりを灯そう」と、商工会議所の先頭に立って資金集めなどに奔走した。神戸の年末の風物詩になった。突撃隊長型の太田は「ルミナリエおじさん」と呼ばれている。

2021年5月14日の東京新聞には「お風呂が沸きました」が2021年3月にメロディと声をあわせて音商標登録されたという記事が載っていた。商標の対象は文字や図形だけだったが、視覚障碍者の不便を解消しようと音の商標登録が1997年に始まった。大正製薬の「ファイトー イッパーツ」も認定を受けている。「お風呂が沸きました」は、自宅で私もよく聞いている。これからは太田敏郎を思い出すことになるだろう。 

お風呂は人を幸せにする―わが心の自叙伝

お風呂は人を幸せにする―わが心の自叙伝

  • 作者:太田 敏郎
  • 発売日: 2008/05/01
  • メディア: 単行本