7月の寺島実郎「世界を知る力」の内容を反芻してみました。
今月の世界と日本経済。
アベノミクス「日本をとり戻す」ーー8年経って「日本の埋没」に拍車をかけた結果になった。
3本の矢は飛んだか?
第1の矢「金融緩和」:マネタリーベースは121兆円から555兆円。4.6倍。貸出残高は25%しかアップしなかった。資金需要はなかった。
第2の矢「財政出動」:予算567.5兆円(コロナ対策76,6兆円を含む)。赤字国債。国の借金は992兆円から1216兆円に増加。GDPの2.3倍。後代負担になる。
「デフレの脱却」が政策目標だった。調整インフレ政策だ。しかし2020年の消費者物価指数は0.0%となり、失敗だった。
安倍政権は「2020年にGDP600兆円」という目標を掲げた。2020年は実際は名目GDP536兆円。2007年の水準、25年前の1996年の水準に戻ってしまった。
第3の矢「成長戦略」:2012年から2010年の国民生活はどうなったか。2012年から2020年の給与は0.97%アップ。物価は5.6%アップ。家計消費支出は▲2.8%。国民経済についての第3の矢は飛ばなかった。
株高:実質GDPは▲4.0%、株価は2017年から2020年で40%アップ。公的資金80兆円の注入(年金GPIFの4分の1。日銀の直接ETF買い)。政治主導。個人株主の70%の高齢者に恩恵。コロナ下でも株価はアップした。
円安(79円80銭ー110円):輸出企業にはよかった。輸入企業にはよくなかった。企業には総じてプラスだった。食糧やエネルギーは高くなった。
格差と貧困の拡大。非正規社は2000年に25%、2020年は雇用者の37.2%と4割に近い。
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産業の現場はどうなっているのか?。
・技能オリンピック。2001年から2011年には1位から3位の上位だった。2017年にアブダビ9位、2019年にロシアで7位に後退。現場力の低下だ。56種目(フラワーアレンジ、ビューティセラピー、お菓子、洋裁、レストラン、ホテル接遇、造園、看護、介護、、、)。現場はコンピュータ化だから大丈夫、熟練工は必要ないというが、そうか? 日本の埋没を象徴。若者の光が当たる、健全な日本の産業、資本主義にしなければならない。
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人類史から「人間とは何か?」。
情報科学と生命科学、人類学の急速な進展によって社会科学も変わらざるを得ない。21世紀のAI(人工知能)と人間の違いは何か? ヒトゲノムの解読によって、動物と人間の違いは何か?
ビッグヒストリー(宇宙の中の地球46億年、微生物30億年、ホモサピエンス20万年、新参者だ)。グローバルヒストリー(西洋史・東洋史の連携とつながり)。
2003年にNIHでヒトゲノムの解析が終わった。ヒトとチンパンジーのDNAは1.2%の違いしかない。個体差を入れると1.06%しか違いはない。それは言語、表現、意思疎通に関わる能力である。社会的生物。
人はは生きる意味と歴史を問いかける存在だ。時間軸の中で。10万年前に「認知革命」。自伝的記憶力。シナリオ構築、他者との連携。創造力(クリエイティビティ)と想像力(イマジネーション)。木から落ちた猿となり二足歩行と器用な手先が生まれた。環境に適応しながらDNAを進化させてきた。「The GAP」(現実を生きるサル・空想を語る人間)。「創造する力」(写実的記憶力の瞬発力はサルが強い)。相対化。
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「グレートジャーニー」。旅する遺伝子。環境変化に対して驚き、目を覚ます、克服する力。環境適応動物。
ホモサピエンスのアフリカ単独起源説。雨、生命の森。35万年前に旧人・ネアンデルタ―ル人はホモサピエンスと交雑しそのDNAが組み込まれた。20万年前に脱アフリカ。10万年前に認知革命が起こり、自伝的記憶力を得る。
6万年前からユーラシア大陸へ移動。食糧を求めてという説、寒冷期から温暖期の気候変動説、感染症からの脱出説。3.8万年前に日本列島に到着。ヤポネシア。1.7-1.0万年前の温暖化。1.4万年前に縄文。
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「定住革命」。19万年の移動による進化を経て、1.5-1.0万年前に新生人類が定住。狩猟から農耕へ。コミュニティに身を置くことになった。嫌いな人とも同居。「利他心」の芽生え。配慮、つながりの大事さ。世界宗教の誕生へ。
「人類全史」(ラザフォード)は農耕によってDNAが変化した(ミルクを消化するDNA)。
ジェームズ・スコット「定住による穀物の栽培は進化か退化か」、家畜化によって国家、組織の奴隷になったのだ。
ニコラス・クリスタキス「ブルー・プリント」。進化とは社会性の獲得、協力・友人・学習。
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「アイスマンの衝撃」。1991年にアルプスの3200mの氷河の谷間で5000年前のヒトを発見。DNAから。瞬間冷凍。157.5Cm、50キロ。45歳前後。O型。男性。殺された。同じ種族の中で殺し合う動物は人間だけだ。胃袋から豊かな食生活がわかった。肉類と穀物、農耕牧畜社会。衣服はシカ・ヤギ・羊の毛皮、マント。身体のツボに刺青がある、一定の医療行為。DNA解析から現在のオーストリアのチロル地方3700人の中で19人の子孫が確認された。
「縄文文化のダイナミズム」。縄文は1.4万年前から5000年前、その後期縄文時代に土偶のダイナミズムがある。アイスマンと縄文人は同時代だ。
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「中年の危機」の克服には「出会い」と「使命感」。自分を見つめ直す出会い。何をするために生きているのか、目的をもって腹をくくる瞬間、使命感を持つ。
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立川:整体の後、昼食を摂りながら、知研の今後について福島さんと意見交換。
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「名言との対話」7月19日。猿谷要「「私はアメリカとの付き合いに、一生をかけてきたような気がする」
猿谷 要(さるや かなめ、1923年7月19日 - 2011年1月3日)は、日本のアメリカ史研究者。
東京生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。ハーバード大学の客員研究員などを経て、1971年に東京女子大学教授となる。
第2次世界大戦中は陸軍パイロットで、敵国アメリカに興味を抱いたのが研究の道に入ったきっかけという。黒人や日系アメリカ人、さらに少数民族などの視点からの研究を専門とする。軽快な語り口で歴史叙述を行い、アメリカ史についての知識を広めることに貢献した。
アメリカ大統領は国家元首、行政府の長、陸海空軍の総司令官、政党党首、そして道徳を体現するリーダーであるから、大変な重責だ。この本は歴代の40数人の大統領のそれぞれの紹介をしながら、アメリカ史を概観できる構成になっている。それぞれの大統領が登場した背景、業績、私生活などが手際よくまとめられている、総責任者としてこれ以上の人はいないだろう。
大統領のランクづけが興味深い。学者とジャーナリストが数十名参加してランクが5段階で決まる。Aランクは11人いる。1位はリンカーン。2位はワシントン。3位はFDRルーズベルト。4位はセオドア・ルーズベルト。5位はアイゼンハワー。6位はトルーマン。7位はジェファーソン。8位はケネディ。9位はレーガン。10位はジョンソン。11位はウィルソン。そしてオバマは12位でBランクのトップと高い評価となっている。
18世紀末から19世紀初めの建国時、19世紀の中盤の南北戦争という国家分裂の危機時、そして20世紀の前半から中盤にかけては7人も選ばれている。20世紀はアメリカの世紀であることがわかる。
猿谷は建国時というもっとも困難な時期にワシントンのような卓越した人物がいたことを幸運としている。2代目のアダムズについての項を終えるにあたって、「建国の祖父」の時代と記している。この本は、猿谷が育てた弟子たちのリレー執筆となっており統一感があり、また副大統領、ファーストレディなどのコラムも読ませる。人物によるアメリカ史になっており、優れたアメリカ史入門書だと感じた。
猿谷要は1956年の「アメリカ発展小史」(三和書房) から、2009年の「アメリカ黒人解放史」(二玄社) まで、アメリカに関する40冊に近い大量の本を書いている。
黒人史。アメリカ史。リンカーン。旅行記。西部開拓史。日米関係。ニューヨーク。キング牧師。ハワイ王朝。女性。アメリカ史の人物。ケネディ。、、、、。まさに一生をかけて追い求めたライフワークは壮観だ。一人の人物が一つの国についてこれほどの質の高い大量の本を書くことに驚きを覚える。私もいくつかの本は手にした記憶がある。
アメリカを熟知した猿谷は、晩年になって編集した2003年刊行の「アメリカよ!」では、イラク戦争で浮き彫りなったアメリカの姿の読み方を、各界28人のアメリカ通の緊急提言をまとめて提示している。
その延長線上に、2006年刊行の「アメリカよ、美しく年をとれ」(岩波新書)を書く。若く躍動的な国であったアメリカは、20世紀には超大国になった。そして21世紀を迎えて衰退の兆しがみえる。アメリカをこよなく愛する猿谷は、大英帝国と同じように、アメリカには老醜をさらさずに、美しい姿で生き延びて欲しいと願う。長年の恋人を心配している心境を語っている。
「私はアメリカとの付き合いに、一生をかけてきたような気がする」と述懐している猿谷要の、アメリカへの最後の愛のメッセージだ。