寺島実郎の「世界を知る力」ーー21世紀の世界と日本。世界宗教の共通点。

東京MXテレビ寺島実郎の「世界を知る力」。

21世紀の世界の20年

  • 2011年9月11日から20年。犯罪ではなく「戦争だ」(実際は19人の犯罪だった)とブッシュ大統領が叫んでから、アフガン戦争、イラク戦争を経て、20年経って再びタリバンがアフガンを制圧した。
  • イラク・アフガンで7200人のアメリカ人軍人が死亡。バイデン大統領は「我々はネイションブルディングをしようとしたのではない」と言っているが?。
  • 2001年:アメリカの一極支配。自国中心。例外主義ユニラテリズム(京都議定書、ICC構想、CTBTには入らない)。2021年:全員参加型秩序へ。
  • 結末:湾岸産油国(クエート1.5万人・カタール8000人・バーレー5000人ン)に2.8万人の軍事駐留となった。シリア900人、イラク2500人が残留。
  • 日本には「検証報道」が必要だ。日本はインド・イラク自衛隊を派遣した。それは正しかったのか。「不必要な戦争を拒否する勇気と構想。アメリカの対外戦争は失敗の歴史だ。イラン革命(1979年。パーレビ体制崩壊)、イラン・イラク戦争フセインに味方)、湾岸戦争(9・11)、イラク戦争フセインを殺害)。「敵の敵は味方」で、裏切られ続けたアメリカ。
  • エネルギー情報:2001年1バレル27ドル。2008年145ドル(ロシアを支えた)、リーマンショックで30ドル、2015年のシェール革命でダウン、現在は70ドルまで回復。
  • アメリカが世界一の原油生産国・天然ガス生産国になった。原油価格は需給だけでは決まらない。原油価格はマネーゲームの対象になった(マジックマネー)。9月12日の日経「アメリカは原油の輸出国になった」。アメリカにとっての中東の意味が変わった。中東で必要以上にリスクを取る必要があるのか?

イスラエルからみた中東の20年

  • 1000万人弱の人口でアラブの海に囲まれているイスラエルは明らかに中東の勝組となった。イスラエルの戦略的利害は、アラブの分断と弱体化、アメリカの利用と取り込み。周辺国の状況:レバノンは国家破綻、シリアではISによる大混乱で荒廃、エジプトはアラブの春と軍事クーデター、イラクフセイン体制の崩壊、そしてGCC(湾岸産油国)のUAE、バーレンとの2020年のアブラハム合意と国交樹立。
  • イスラエルの力の源泉はインテリジェンス(諜報活動)と高度技術力。100発以上の戦術核の保有。ワクチン接種力も高く差先端。脱石油の潮流。イスラエルアメリカにとって厄介な同盟国。生存にあたっては結束力を示すしたたかな国(12年のネタニエフ政権の終り。常に連立政権)。

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21世紀の日本の20年

  • 日本の埋没。2000年、日本の世界GDP比14.4%、2020年6%、2030年4%台。貿易相手国は2000年にはアメリカ25%、中国10%。2020年アメリカ14.7%、中国23.9%。2030年には26%の中国を含むアジアは61%とアジア依存が進む。
  • 日本はアメリカにとって都合のいい国。対米過剰同調と過剰依存。同じ同盟国であるイスラエルとの強いコントラスト。この20年間、アフガンに7000億円の支援、インド洋に海上自衛を派遣。イラク戦争陸上自衛隊を派遣。集団t歴自衛権、、。アメリカとの同盟、中国と正面から向き合うために、アメリカとの関係を見直す転機にある。柳澤協二との対談本「人類は、、、手に入れたか」。

人間とは何か

  • 人類史における宗教。1回目はホモサピエンスの20万年前の誕生、6万年前からのグレートジャーニー、1万年前からの定住革命。2回目は他者を思いやる心としての宗教、聖なるものの存在を問いかける。
  • 今回は3回目:2500年前に世界宗教が誕生。中東一神教ユダヤ教キリスト教イスラム教。ユダヤ教:祖・アブラハムの3200年前の旅立ち、3100年前のモーゼの出エジプト、2500年前のモーゼの五書。旧約聖書ラスタルムード(聖なる書。口伝律伝)。ウル(イラク)、パレスチナ、エジプトへの旅。民族の苦難の中から絶対神に選ばれた民を意識(選民思想)。
  • キリスト教:ラビの一人がイエス。AD33年に処刑。聖墳墓教会ゴルゴダの丘キリスト者芥川龍之介の『さまよえる猶太人』。ヨセフへの「行けというなら、行かぬでもないが、その代わり、その方はわしの帰ってくるまで待って居れよ」は歴史を変えた言葉だ。再臨。AD36年にパウロの回心があった。パウロはキリストとは会っていない。神はユダヤ人だけの神ではない。人類の原罪を背負った高潔な死と愛。民族、階級、性別を超えた神として作り変える。「パウロキリスト教をつくった」。人種、性別、階級に関係ない神を世界化した。AD312年にローマのコンスタンティヌス帝がキリスト教に改宗。
  • キリストの再臨思想は今でも生きている。アメリカ人口の25%をしめるトランプ支持者のキリスト教福音派」は信じている。再臨に備えてエルサレムイスラムの地にしていてはならない。
  • 仏教の原点と加上(加えてつくりあげていく):各地の天才たちが超越的な神秘性を付加していった。2500年前のブッダの仏教は究極の「内省の仏教」、悟りから涅槃へ。「自灯明・法灯明」(自分で、法に則って)。スリランカなどの上座仏教は「出家の仏教」。大乗仏教中央アジア、中国、朝鮮、日本へ。「衆生救済」「国家鎮護」。竜樹の「加上」は、個性、時代状況に応じて加味する考え。日本でも空海親鸞日蓮、、。
  • キリストの「愛」、大乗仏教の「慈悲」、孔子の「恕」。「恕」は、子貢「一言にして以て身を終うるまで之を行うべき者ありや」。孔子「それ恕か。己の欲せざる所、人に施す勿れ」(論語)。ゆるす、心の広さ、思いやり。
  • みな利他性、他者へのいたわりを語っている。ささくれだった現在、失われているのはこれだ。

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東京富士美術館「ANCIENT EGYPT」展。ベルリン・エジプト・コレクション、
天地創世神話。原初の海から始まり、原初の海で終わるという世界観。再び創造神の出現により世界をつくっていく。多神教の世界。死者の書。再生。楽園。

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「名言との対話」9月19日。大城立裕「今の日本の為政者は沖縄を犠牲のままにしておくことに痛みを感じていない。いまだ続く差別の構造は令和へ持ち越された宿題だ」

大城 立裕(おおしろ たつひろ、1925年9月19日 - 2020年10月27日)は、日本の小説家

1925年沖縄生まれ。沖縄県費生として東亜同文書院大学予科に入学するが、兵役、敗戦で中退。基地勤務、高校教師を経て、25歳以降は琉球政府沖縄県の公務員生活を送る。経済企画課長、通商課長、公務員研修所長、沖縄史料編集所長、県立博物館館長を歴任し、定年退職。
この間、芥川賞を受賞した後は、琉球・沖縄の歴史と民俗をテーマとした前近代史、近代史、戦後史にわたる作品を書き続ける。2002年、77歳で全集を勉誠出版から刊行。受賞歴は、平林たい子賞紀伊国屋演劇賞特別賞、紫綬褒章沖縄タイムス賞、琉球新報賞、沖縄県功労賞、日本演劇協会演劇功労者表彰、2015年「レールの向こう」で川端康成文学賞になる。2019年、井上靖記念文化賞。

2015年に読んだ『琉球処分』(上下巻)。著者は「カクテル・パーティ」で芥川賞を受賞した作家である。沖縄出身では初めての快挙だった。この本は1968年に単行本として出版されたが、もともとは1959年から琉球新報に連載したものである。連載当時はあまり注目されなかったが、1972年の本土復帰の前後に読みなおされた。

1872年から1880年までの8年間の、沖縄が明治政府のもとで強制的に日本に組み込まれたプロセスを描いた物語だ。歴史は事実の羅列だけでは、理解が不足する。その時代に生きた人々の吸った空気、ざわめき、憤り、友情、志、、などが記されていないからだ。この小説を読む中で、日本政府の要人たちと、対応した琉球の人々の人心とその息遣いを感じることができたように思う。これが小説というものの効用である。

琉球は、長い間、日本と中国の両方に属す両属国家であった。処分官・松田道之はじめ明治の近代国家を建設中の日本政府の官僚たちは、長い琉球の歴史に敬意を払いながら、穏健に日本政府の中に組み込もうとする。大久保利通伊藤博文などが松田の上司だ。

「内政に似てしからず、外交に似てしからず、微妙な国際的駆け引きのなかで、純情らしくあるいは老獪らしい琉球の人士を相手の心労」に時間をかける。しかし中世のままの存在であった琉球との交渉の根気くらべに負けて、最後は、強硬策をとり、王(藩王)を上京させ華族に列させて、日本の中に組み入れてしまう。この過程を克明に書きながら、歴史の転換期の当時の関係者の苦悩を描いている。

若い主人公は最後にこう思う。「歴史を変えることはできない」といま言ってしまってはいけないのだ。たとい、こんな平凡な事務をとりながらでも、、、疑う自由があるかぎり、まだなにかを生み出すことができないとは限らないのだから、、。琉球と沖縄の人々の粘り強さ、忍耐づよさ、我慢強さ、しぶとさを垣間見る思いがする。

沖縄出身の佐藤優は、解説の中で普天間問題は「平成の琉球処分」と沖縄は受け止めていると語っている。「はねかえしてもはねかえしても寄せてくる」ような静かな抵抗を沖縄から受けるだろう。その抵抗が繰り返す中で、日本の国家統合が内側から崩れ出す、その過程が始まっていると警鐘を鳴らしている。沖縄問題の根源に迫る名作である。

小説「琉球処分」を書いた大城立裕が、川端康成文学賞を受賞したというニュースをみたので、興味が湧いて受賞作の載った「レールの向こう」(新潮社)という単行本を読んだ。 

「レールの向こう」という短編小説は、大城には珍しい短編の私小説である。脳梗塞をわずらった妻の介護と、亡友の思いとからめた作品となった。それが独自の普遍性を生んだ。大城は数十年間にわたる作家生活で「沖縄」にこだわってきて、「沖縄の私小説」を書いていますと言ってきたが、これらの作品で、私小説の普遍的な存在が見えたそうである。

自身の病気を扱った「病棟の窓」、縁者をモデルにした「四十九日のアカバナー」、甥をモデルにした「エントゥリアム」、フィクション性の薄い「天女の幽霊」など。いずれも沖縄の風土と日常が匂ってくるような作品である。

公務員勤めをしながら小説を書くという生活を始め、定年退職をした後も続けてきた、と「レールの向こう」の中で述懐しているように、42歳で「カクテルパーティ」で沖縄初の芥川賞を受賞するなど、この人は二足のわらじを履き、そして60歳の定年後は30年以上にもわたって文筆活動をつづけているのだ。そしてなお新しい境地を拓いた私小説で川端賞を受賞した、という事実に感銘を受けた。

大城立裕は、作家としては、宮仕えをしながら30年、自由になって35年ということになる。このような人生の先達の姿に粛然とする。2020年10月27日、大城は95で永眠。

「いまだ続く差別の構造は令和へ持ち越された宿題だ」。日本人が心すべき言葉である。

 

 

レールの向こう

レールの向こう

  • 作者:大城 立裕
  • 発売日: 2015/08/31
  • メディア: 単行本
 

 

小説 琉球処分(上) (講談社文庫)

小説 琉球処分(上) (講談社文庫)

  • 作者:大城 立裕
  • 発売日: 2010/08/12
  • メディア: 文庫
 

  

小説 琉球処分(下) (講談社文庫)

小説 琉球処分(下) (講談社文庫)

  • 作者:大城 立裕
  • 発売日: 2010/08/12
  • メディア: 文庫