日米合作の映画「トラトラトラ」再見。

1970年に公開された映画「トラトラトラ」が、12月8日が真珠湾攻撃の日だったことでテレビで放映されていたのに見入ってしまった。日米両国の動きを題材にして、日本と米国の合同制作作品だ。公開された当時に大きな話題になったので私も見ている。

大きな流れの中で、互いに失敗を重ねながら、真珠湾攻撃という日に向けて両国の人々が動いていく壮大なドラマだ。真珠湾攻撃の凄まじい様子は見ごたえがある。そして予想以上の成果に海軍の幕僚たちが喜んでいる。しかし連合艦隊司令長官山本五十六は、宣戦布告文書がアメリカに手渡されるのが遅れたことで、アメリカの憤激を招くことになると述べて、甲板に出るシーンで終わり、その後の日本の運命を予言している

後に、山本は友人の朝日新聞緒方竹虎に、真珠湾攻撃は敵の寝首をかいたにすぎず、アメリカは決然たる反撃に出るだろうから、「銃後のご指導はよろしく願う」という趣旨の手紙を書いている。

2006年3月にハワイ旅行中に、この攻撃で沈んだアリゾナ号記念館を訪問したことがある。以下、そのときの手記。

美しく整った庭園と噴水のある中庭を囲むように建てられたアリゾナ記念館見学センターを観る。戦艦アリゾナは1941年12月7日の日本軍の真珠湾奇襲攻撃で沈んでいる。
オーディオサービスがあり、日本語で館内の掲示物の解説をしてくれる。アリゾナ号模型、攻撃模様などがあるが、この真珠湾攻撃の指揮をとった山本五十六大将と攻撃隊の南雲忠一中将の写真が貼ってあった。ハーバードで学びワシントン駐在経験がある山本はアメリカ人とその戦い方を熟知しており、工業力の底力も知っていたとある。そして山本は当初は日米開戦に反対であったが、陸軍に牛耳られていた政府の圧力に抗しきれずに、遂に真珠湾奇襲作戦の強力な指導者となったと解説書に書いてあった。山本五十六大将にはやや同情的な書き方だった。

真珠湾攻撃の様子をまとめた映画を観た後、桟橋から船に乗り込み、アリゾナ記念館に向かう。アメリカ人がほとんどで日本人はいない。戦艦アリゾナの沈没した艦体の上にまたがったデザインの建物に移る。中央が下がっており、両端があがっている。中央は敗北による気力の喪失、両端は勝利による気力の上昇を示している。アリゾナの遺体の回収はあまりにも大きな危険が伴ったため断念され、艦体の引き上げ作業も中止となり、1177名の乗組員のうち1102名は未だに艦内にある。そのため真珠湾攻撃で命を奪われた全将兵を弔う記念碑となった。中央部分からはアリゾナ号の砲台跡が海面に出ている姿を見ることができる。エントランスの反対側には戦没者の全氏名が掲載されたプレートをみることができる。

さて、山本五十六海軍兵学校時代は聖書を座右に置いていた。35歳から2年間のハーバード大学への留学時代にはアメリカの研究に励み、油田や自動車産業、飛行機産業に強い印象を受けた。関東大震災時には「日本人は偉大な民族であり、前より立派に復興する」と周囲を励ましている。軍縮会議で「劣勢比率を押しつけられた帝国海軍としては、優秀なる米国海軍と戦う時、先ず空襲を以て敵に痛烈なる一撃を加え、然る後全軍を挙げて一挙決戦に出ずべきである」。これが後の真珠湾攻撃になる。

「苦しいこともあるだろう 言い度いこともあるだろう 不満なこともあるだろう 腹の立つこともあるだろう 泣き度いこともあるだろう これらをじっとこらえてゆくのが 男の修行である」。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。 やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」。上杉鷹山の「してみせて言って聞かせてさせてみる」を変えている。この山本五十六の人間観が、高い人気と強い統率力をもたらしたのだろう。

2007年に新潟県長岡市山本五十六記念館を訪問した。山本五十六大将は石油や航空機に注目したように時代の流れを見抜いていた。日独伊三国同盟に「この身滅ぼすべし、この志奪うべからず」と危険を省みず反対したが、開戦にあたっては真珠湾攻撃を指揮する運命を担う。最後はブーゲンビル島で1943年に戦死。山本は多くの手紙を書いている。家族や恩師などに送った手紙が多く展示されていたが、見事な筆致である。雄渾な書体は「書は人なり」という言葉を思い出させる。

「日本では出来ない視察旅行をせよ。そのため日々倹約に努めよ。語学は着任後数ヶ月程度で習得せよ」(米国駐在大使館付き武官時代)

「私は河井継之助小千谷の談判に赴き、天下の和平を談笑のうちに決しようとした、あの精神をもって使命に従う。軍縮は世界平和、日本の安全のため、必ず成立させねばならぬ」

2020年12月。NHKBS1スペシャル「山本五十六の真実」をみた。山本の生涯の親友であった大分県杵築市出身の堀悌吉について興味が湧いた。海軍を担う人材ととして将来を期待されたが、戦争自体を悪と考え、にらまれて予備役となった人だ。そのことで山本は自分も海軍をやめようとするが、君までもいなくなったらどうなるのだと堀から戒められて思いとどまっている。つい数日前も、山本と堀の友情をテーマとしたテレビ番組をやっていた。再放送であったのかも知れない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今日のヒント。日刊ゲンダイ12月9日。堀田秀吾(明治大学教授)

アメリオハイオ州立大学のジェンタイルらの研究(2019年):他人の幸福を願うグループがもっとも幸福度が高く、不安が減少し、共感性や他者とのつながりにおいてもプラスの作用が働いたことがわかった。。個人差が実験結果にほとんど影響をもたらさなかった。

アメリカヒューストン大学のラッドらの研究(2014年):利他的な行為の中でも、より身近かつ具体的な行為をする方が、自身の幸福度を高めることが判明している。

ーーーーーーーーーーー

「名言との対話」12月9日。日下公人「情報は持っている人に集まってくる。」

日下 公人(くさか きみんど、昭和5年(1930年)12月9日]- )は、日本の評論家、作家。 

兵庫県生まれ。自由学園中等部卒業。 東京大学経済学部を卒業。日本長期信用銀行取締役を経て、ソフト化経済センター理事長、東京財団会長、社会貢献支援財団会長 などを歴任。市民満足学会会長。多摩大学名誉教授。著書『新・文化産業論』でサントリー学芸賞

日下公人の書いた本は若い頃からずっと読み続けてきた。ブログを書き始めてからは、読書記録をつけているので、以下紹介する。

2006年。日下公人『「数年後に起きていること』(PHP)。「統計を見て話す専門家の意見は遅れる」。「エコノミストに聞いて報道するマスコミはさらに遅れる」。「政経冷熱は聖徳太子以来千四百年間、不動の日中関係である」。「日本経済は、美の経済、質の経済」。「日本は高級マーケットで生きていく、中国とアメリカは中級マーケット」。「美・風流・品格・道義・徳性」「ニュービジネスのヒントは、健康・社交・学校・信仰・格好(五コー)と風流」「インディペンデントとは給料で生きていない人。上がりで暮らせる人」。「もともと中国には外務省はなかった」。「衛生戦争と汚職革命が世界に広がる」。「死活的問題は、日本精神と子どもの教育、そして日本語である」。「日本精神の特徴。日本語一つで世界がわかる。千四百年の歴史でセンスになっている。被侵略がないので全員共有。共同体の論理も、弱肉強食のグローバルスタンダードもわかる。以上を、生活はもちろん、芸術や産業にも応用して磨きがかかっている」

2009年。『日本人の覚悟』(祥伝社)。日下先生は長銀、ソフトか経済センター理事長などを歴任され、ベストセラーも多く書いている。日下先生には、ビジネスマン時代に会社の広報誌のインタビューをソフト化経済センターでした記憶がある。常識の逆をいいながら深く納得させられるというスタイルの語り口で、私も折りに触れてかなりの量の本を読み続けてきた。また、最近では「顧客満足学会」の理事長である先生と何度かシンポジウムでご一緒したこともある。今回の本は、「「芯」を抜かれた人は退場せよ!」という副題がついているように、日本人に昔からあった「覚悟」の大切さを独特の日下節で語り切っている。技術の奥には精神があり、精神の完成した姿に日本人は「徳」という言葉を与えた。道徳に裏打ちされた日本人の精神=芯=覚悟を取り戻せという主張である。日下先生の知的生産の技術に関する記述。「私は戦記物の愛読者で、古今東西の記録を数多く読み、、、今までに私は、軍人や戦争を主題にした本を10冊以上書いている。それらを書く資料としては1000冊以上の文献を読んだが、、、」

2012年。 日下公人の最新作を二冊読んだ。相変わらず、「日下節」が冴えている。
日下先生は多摩大教授の先輩で、所属している市民満足学会の会長でもある。また、日本航空時代には、航空識者対策をしていた私は識者向けの雑誌のインタビューにも応じていただいたこともある。いつもニコニコしながら驚くべきことを言うが、「そうだなあ」と共感するのが常だ。
日下公人が読む 日本と世界はこうなる」(WAC)。「あまり、国家を信用するな。専門家はあてにならない。自衛隊は素晴らしい。地元の消防団はもっと素晴らしい。大企業は逃げる。政治も行政も上は逃げる。下はしっかりしている。自分の生命や財産はやっぱり自分で守るものだ。マスコミよりネットやブログのほうに真実がある」。「昔からユダヤ人が集まってきた町や国家は。、、次は日本かも知れない。日本に対する金融グローバル化の諸要求にはそのための地ならしがかんじられる」。「(アメリカ)は、私はもはや立ち直ることはできないと想像している。その理由は、「道徳(モラル)がない国」だからである」。「日本は道徳が健在だから、経済は自然によくなるはずである」。「中国はどうかといえば、分裂・分解の道に入り、全体としては長期停滞になる。、、一部の勢力は日本に友好関係を求めて平和攻勢にでてくる。つまり、中国は日本に屈伏することになる」。「もはやEUの必要がなくなる。ヨーロッパはヨーロッパ的幸せをエンジョイしつつ、少子高齢化の道をたどる」。「アニメ、ゲームなどを通して日本文化が広まっており、その底辺にある日本人の心や道徳が浸透しつつある、、、マンガ、アニメ、げーむ、映画、それから外国に行く旅行客で、それは庶民や子供のレベルから世界を変革しつつある」「若い時は肉食系で老後は草食系になって両方を体験する生き方と考えると、それは江戸時代からたくさんの人がやってきた生き方である」。「(財政出動の効果がないのは)、バラまきの相手が中流層ではなく下流層だからである」「国が持っている国内資産と海外資産をすべて売れば、、、本気で国が持っている資産を売れば、国家財政が間もなく破綻するなどと心配することはない」。
「日本の個人資産総額(1400-1500兆円)、、、預貯金総額は800兆円を、財政赤字を埋めるために「半分にします」と徳政令を出しても、怒る人は多くはないのではないか、、多くの庶民は平均額より少ない、、打撃を受けるのは支出予定がある人である。、、当面は赤字国債を発行し続けても、日本は心配ない」。「年金、健康保険の強制加入は民主主義に反しているし、国家には運営能力が欠如しているから廃止して民間に任せたほうがいい。すなわち、小さな政府にすればいい」。

「超先進国日本」が世界を導く(PHP研究所)。「ポケモンの哲学とは何か。物語の結末を見ると、みなで話し合って、敵同士もわかりあって、許し合って、涙を流す、、というようなものが多い。「ワンピース」も同じである」。「「中流」の生活態度。1.合理的で、決して僥倖を当てにしない。2.計画的に物事を進める。自己管理能力の有無は、中流の要件である。3.前向きで経済的な生活を好む。4.実践的な行動力に富む」。「上に立つ者の責任とは何か。それは全幅の信頼がおける部下を見つけだし、次にそのポストに置いたら任せて、いちち口出ししないことである」。「通説に反するものは報じないのがマスコミである」。

「日本と世界はこうなる--日下公人が読む2014」(WAC)。「来年はグロバーリズムからローカリズムへ世界が変わる。そのとき多くの国はアイデンティティ・クライシスに襲われる。アイデンティティのある大国は日本だから、世界は日本を学ぶようになる。来年はアイデンティティ・クライシスに起因する混乱と分解が多発する」。「EUで生き残るのはドイツのみ」。「アメリカは人種戦争。白人比率はあと数年で5割を切る。モンロー主義に戻っていく」。「中国は言語圏別に分解。日本が屈すれば南シナ海は中国の要塞となる」。「スパイ防止法NSA、CIA。集団的安保。核武装、、」「数字ではなく文化・精神・思想・道徳が問題になる。ローカリズムが勝ちエスニシティの時代になる。地方・民族・国の価値が主役になる」。この本の中にある「情報は持っている人に集まってくる。」という言葉も至言だ。

独特のキレのいい日下節は健在だ。日下先生は多摩大で開学以来の教鞭をとられていた方だ。わたしはJAL時代にインタビューをしたことがある。また理事として顧客満足学会で理事長の日下先生に仕えた形にもなる。

「一生懸命やったらこんな結果になった。調べてみたら、前例がなかった。クリエイティブだということは、後からわかった。そんな感じが本当の創造性である。だから大切なのは創造性ではなく、実は情熱である」という言葉にも共感する。