6月の寺島実郎の「世界を知る力」ー悪魔のシナリオ。日本へのインパクト。黒海の地政学。近代史におけるロシアと日本のンシンクロ。日本の戦略。。

寺島実郎の「世界を知る力」

悪魔のシナリオ。膠着、長期化の状況下で喜んでいる人々がいる。

  • ロシアの消耗:ウクライナの重自治。アフガンに進攻したソ連の撤退と同じになるか。ロシアの弱体化すでに実質的な出フィルとが始まっている。産業の木の不善。物価上昇などロシア国民の苦闘。世界銀行の予測:2022年は▲8.9%成長。核付きの大きな北朝鮮。GDP11位だが、3-5年後には20位以下と弱体化。
  • 軍事支出の増大と武器商人の活躍:武器輸出が増えている。ウクライナアメリカ53億ドル+NATO=1000億ドル以上(1.3兆円)。予算の2-3倍。兵器の見本市。
  • 化石燃料世界一のアメリカははエネルギー価格の低迷と脱石油の流れで困っていたが、1バレルあたり40ドルの上昇で、100ドルを超えた。それだけで年間1.5-1.6兆ドル(200兆円)で潤っている。

日本へのインパクトは? ウクライナ穀物輸出ができないと、国連は16億人が食糧危機にさらされると予測。

  • 危機時のレジリエンス(耐久力):「食とエネルギーと水」のファンダメンタルズ。
  • 食糧自給率37%:7.4兆円の輸入。ロシアは0.8%。今年小麦価格は41%の上昇。
  • エネルギー(石油・LNG)の輸入は16.9兆円。ロシアは0.9兆円で5.6%。アメリカが7.9%。今年原油先物は57%上昇。
  • 日本の輸入は食とエネルギーで24.3兆円、これが30兆円超になる。
  • 日本の輸出の主力は自動車・電機製品エレクトロニクス・鉄鋼で33.4兆円、これが価格の上昇で10%増える。
  • インフレ懸念:欧米はこぞって金利上昇中。日本は低金利のままさらに「恐怖の円安」が効いてくる。1ドル135円という24年ぶりの円安。2012年は79.8円で7割の下落。
  • IMF予測:日本の購買力平価レートは1ドル91.5円。現在は135円ゾーン、145円ゾーンに近づくだろう、8割の下落。
  • 日本は迷走:日銀は独立した物価の番人のはずだが、アベノミクスに追従・異次元の金融緩和、補助金助成金・給付金は赤字国債で日銀が引き受け、1241兆円の借金。硬直。金利を上げることができない。せっちんずめの状況で金縛りにあい、脱する手段を見出せない。
  • 消費者物価(CPI)は現在2.1%上昇。今後さらに上昇する。景気後退下の部かk上昇というスタグフレーションにさらされる。
  • 岸田政権:金融肥大化をどう修正するかというテーマへの回答が「新しい資本主義」。「貯蓄から投資へ」は証券会社のスローガンのレベル、国の政策ではない。大事なのは産業だが産業人は沈黙している。産業人の誇りのなさに腹がたつ。

「ロシア・ウクライナ」理解の背景。欧州理解のカギは黒海

近代史におけるロシアと日本。

  • ロシア:1853年にクリミヤ戦争勃発。オスマンとフランス(ナポレオン3世)、イギリス連合軍とロシア(ギリシャ正教ロシア正教)のエルサレムの管轄権を争う戦争。クリミヤ半島のセバストポリの戦い(5万人が籠城、349日)の敗北で後進性を自覚。アレクサンドル2世の大改革の時代でなり、農奴解放、富国強兵、殖産興業で近代化。
  • 日本:1853年のペリーの浦賀来航で後進性を自覚。明治維新で富国強兵、殖産興業で近代化。ロシアと日本は相関、並行でシンクロしている。
  • ロシアと日本が激突したのが日露戦争(1904-1905年)。
  • 敗北したロシアは1917年のロシア革命レーニンスターリンに率いられた社会主義ソ連になる。そのソ連が1991年に崩壊し、ロシア正教の大ロシア主義のプーチンの時代になる。
  • 勝利した日本は日英同盟日露戦争第一次世界大戦で乗り切り、日英同盟なき時代にアジアに回帰し、大東亜戦争に突入し敗北。戦後は日米同盟で今日まで・
  • ロシアと日本が共通するのは、西欧へのあこがれと自身の限界を知るとナショナリズムへ回帰する傾向。ロシア・中国という権威主義グループと欧米の民主主義グループという世界の分断に、日本はどう対処するか。単純に欧米につくのではなく、アジアとの対話に取り組み、さらにAA諸国、南米にも目配りするという、もう一つのシナリオがある。
  • 現在は大事なタイミング。主体的、創造的な、日米関係を踏まえた一味違う同盟という選択肢。6月21日のウイーンでの第1回核兵器禁止条約締結国会議。際立った役割がある。ドイツはオブザーバー参加、日本は不参加。被爆国日本として核を持つ国は核攻撃をしてはならないという考えの国際条約化など、外交に知恵をしぼるべきだ。非核保有国としてどうやって案ℤ年を保つのか。単純な極構造に陥ってはならない。
  • 日本企業の劣化。日本人の劣化。誠実さ、ごまかしのさなさ、額に汗して働くという日本人の良さ、技術と努力で、仕事を通じて自分を高めることから人生を充実していく。最近は無責任化が横行。仕事の現場が「ブルシットジョブ」になっているのではないうか、この点は日本全体の課題だ。

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「名言との対話」6月20日。守屋荒美雄「自ら書き、自ら出版する」

守屋 荒美雄(もりや すさびお]1872年6月20日明治5年5月15日) - 1938年昭和13年)2月8日)は、日本教育者実業家

岡山県倉敷市出身。岡山県関係の教員学力検定試験をいくつか突破し、文部省教員検定試験を合格し、文部省地理地誌中等教員免状を取得。1897年に中学教員となる。1898年、中等教員検定試験に合格する。

1905年、地図・地理教科書を出版。1910年教職を辞し教科書執筆に専念する。『動的支那地理』(1913年)の序文は同郷の犬養毅が書いている。1914年、『動的世界大地理』を刊行。

1917年、地理・地図専門の出版社「帝国書院」を創立。1920年、地図帳『帝国地図』を発刊し、テーマに沿った主題図、統計、索引、持ち運びできる大きさという現在の地図帳のスタイルをつくった。

1925年、現在の関東第一高校を創立。1938年、現在の吉祥女子中学校・高等学校を創立。

20代の1898年にはキリスト教の洗礼を受けて名前を「荒美雄」(すさびお)と改める。「ス」は最高という意味、「サビオ」は賢人という意味であるから、「最高の賢人」を自称したことになる。他人にも説明しただろうし、何よりも自身を奮い立たせる効能があっただろう。

教科書の名前に「動的」という冠をつけている。静的な教科書に対する批判をこめた言葉だ。青少年に向けてダイナミックな血沸き肉躍る、面白い教科書をめざしたのであろう。国際的な地位を高めている日本国民ににふさわしい地理教育を行うという強い志が感じられる。守屋は生涯で200冊に及ぶ教科書を刊行し、雑誌「地理学研究」の創刊するなど、日本の地理教育に大きさ足跡を残した。「地理教育の父」と呼ばれるにふさわしい業績である。

守屋は1872年(明治5年生まれ)である。因みに同年生まれの著名人の没年を調べてみた。樋口一葉は明治の日清戦争直後の1896年に24歳で没している。守屋自身は戦前の真珠湾攻撃の3年前の1938年で65歳。佐々木信綱は戦後の東京オリンピックの前年の1963年で91歳。平櫛田中は第2次オイルショックの1979年で107歳。いずれも同年生まれであるが、生きた時代が全く違う感じがする。

さて、「地理・地図」を生涯のテーマと定めた守屋荒美雄は、若い頃から「最高の賢人」と自負するだけあって、自ら教育現場で工夫し尽くした教科書を執筆しながら進化させ、ついには教科書を発刊する出版社を創設して自ら教科書を進化させていった。そしてその延長線上に、思う存分教育に当たれるように、中学校・高等学校までつくってしまった。

「自ら書き、自ら出版する」の前に、「自ら学び」を置き、途中に「自ら教え」、後に「自ら導く」を置いたらどうか。守屋荒美雄は、地理教育を生涯のライフワークと定め、「自ら学び、自ら教え、自ら出版し、自ら導いた」、志の人である。