秋は叙勲・褒章の季節ーー勲章、褒章を受けた人たちのコメントを拾う

秋は叙勲・褒章の季節だ。

文化勲章文化功労者、その他種々の勲章・褒章の対象者のコメントを集めてみた。

それぞれ、その分野でとびぬけた功績がある人である。ほとんどの人が、まだ「今から」やるべきことがあるという気迫にあふれたコメントをしている。

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文化勲章

  • 上村敦之90歳。日本画家。3代連続文化勲章(松園・松篁)「来年にも最後の集大成を完成させたい」
  • 松本白櫻80歳。歌舞伎俳優。3代連続文化勲章。「新しいものが生まれると信じて、受けた依頼は)全てやった」「僕は断ることが嫌い。全部やっちゃったんですね。そこから、新しいものが生まれてくることだけは信じていました」「役者は一生が修業。お客様に喜んでもらえる芝居を死ぬまで続けていく」「たかが芝居、されど芝居。お客様に喜んで頂けるよう死ぬまで続けていきたいです」
  • 山勢松韻89歳。筝曲家。人間国宝。「姿を変えないで次の世代に持っていきたい。江戸の美学や美しさを伝えてくれた先輩のためにも」
  • 榊裕之78歳。奈良国立大学機構理事長。京大名誉教授。「学生が前向きに見えるのは、将来を真剣に考えていることの表れ。悲観的にならず、意欲を持って将来に進める大学の環境を作りたい」
  • 別府輝彦88歳東大名誉教授。微生物学
  • 吉川忠夫85歳。京大名誉教授。中国中世史。

文化功労者

  • 加藤一二三82歳。将棋棋士。「モーツアルトの名曲は200年経っても感動を呼ぶ。将棋の名局は100年経っても色あせない」「(今、藤井竜王と闘ったら)そういうチャンスがあったら、研究して元気いっぱい闘う」
  • 吉田和子(沢松)71。テニス選手。吉田記念テニス研修センター。「男女、年齢、地域、障がいを問わず、人生をより豊かにする」「今後もこの理念に沿って行動を続けたい」「テニスを通じて人生をより豊かにする」「これからもこの理念に沿って、今まで通り活動を続けていければうれしい」
  • 伊賀健一82歳・東京工大名誉教授。画発光レーザー発明。「工学は、泥臭い作業で新しいものを作り出す学問。発明品から研究者が育ち、工場生産もされることは感慨深い」
  • 辻原登76歳。小説家。二刀流。「韃靼の馬」「跳べ麒麟神奈川近代文学館館長。「近代日本をつくった偉人を真正面から取り上げる小説など、今後も新しい挑戦を楽しみたい」
  • 松任谷由実68歳。シンガーソングライター。「洋楽から強く影響を受けた作曲に、日本語の美しさ、洒脱さをいかにあわせて歌という形に留めるかを、楽しんだりしながら続けてきた」「50年のキャリアのあいだには幾多の人たちが携わってくれた」「これからも最前線に立ち続ける」

(朝日・読売・日経新聞

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秋の叙勲。日経2022年11月3日。

  • 旭日重光章:家次恒(73)シメックス会長兼社長「医療はこれから大きく変わる。顧客ニーズにどう応えていくか、常に考えていきたい」
  • 旭日大綬章:三浦惺(78)元NTT会長「成功談より失敗や反省を伝え、経済や社会の発展に貢献していきたい。
  • 旭日中授章:コシノジュンコ(83)。ファッションデザイナー「自分が健康である限り、まだ現役で走り続ける覚悟。受章は激励だと受け止めてさらに精進したい」
  • 旭日中綬章:尾山基(71)アシックス会長「これからも日本および世界のスポーツ産業の発展、そしてより良い社会の実現に向けて貢献したい」

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これを機会に、勲章・褒章を整理してみた。

天皇陛下から宮中において親授:大勲位菊花章、桐花大綬章、旭日大綬章及び瑞宝大綬章内閣総理大臣から宮中において伝達:旭日重光章及び瑞宝重光章。その他の中綬章の勲章並びに銀杯及び木杯は、各府省大臣等から伝達。いずれの場合も、配偶者同伴で天皇陛下拝謁する。その他、高齢者叙勲、死亡叙勲、外国人叙勲がある。

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褒章。

  • 紅授褒章:自己の危難を顧みず人命の救助に尽力した方を対象
  • 緑授褒章:ボランティア活動に従事し顕著な実績を挙げた方を対象
  • 黄授褒章:農業、商業、工業等の業務に精励し他の模範となるような技術や事績を有する方を対象
  • 紫授褒章:科学技術分野における発明・発見や、学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績を挙げた方を対象
  • 藍綬褒章会社経営、各種団体での活動等を通じて、産業の振興、社会福祉の増進等に優れた業績を挙げた方又は国や地方公共団体から依頼されて行われる公共の事務(保護司、民生・児童委員、調停委員等の事務)に尽力した方を対象
  •  紺綬褒章公益のために私財(500万円以上)を寄附した者を対象
  • 遺族追賞

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「名言との対話」11月4日。上村松篁「鳥の生活を理解しなければ、鳥は描けない 」

上村 松篁(うえむら しょうこう、1902年(明治35年)11月4日-2001年(平成13年)3月11日)は日本画家。享年98。

母は近代美人画の大家・上村松園。父は松園の師の日本画家鈴木松年ともされるが、未婚であった松園は多くを語らなかった。 松園は竹内栖鳳に師事した近代美人画の完成者で、女性初の文化勲章受章者である。上村松篁は松園の嗣子で近代的な造形感覚を取り入れた花鳥画の最高峰で、文化勲章を受章している。松園の美人画花鳥画に置き換えた画風。松篁の息子の日本画家・上村敦之は、2013年、文化功労者となり、今年2022年に文化勲章を受賞した。松園と松篁も文化勲章を受章しており、親子三代での文化勲章受章となった。

敦之は文化勲章受章に際して、「僕は僕、父は父、松園さんは松園さん」と語るが、仏壇に手を合わせた。「もういっぺん命をいただけるのなら、鳥類学者になりたい」という。そして「これまでの画家が描いてきた、すましたタンチョウとは違う生々しいタンチョウを仕上げます」と語っている。(産経新聞

2015年、奈良の近鉄グループの総帥・佐伯勇の自宅は現在では上村松園ら3代の日本画家の松柏美術館になって解放されていて訪問し、3代にわたる上村家の画業を堪能したことがある。この松柏美術館は、絵は上村家、資金は近畿日本鉄道の佐伯勇会長が出した。2022年4月には、三代の作品展が東京富士美術館で開催され堪能している。

村松篁は鳥の写生にこだわった。インド、オーストラリア、東南アジア等を旅行して鳥を観察している。また、アトリエの敷地にも大規模な禽舎(鳥小屋)を設け、1,000羽を超える鳥を飼って生涯にわたって観察を続けていた。精進を重ねた母の影響、そして本人のあくなき探究心、それらが「鳥の生活を理解しなければ、鳥は描けない 」という言葉を生んだことがわかり、その重みに粛然とする。「「少しでも香り高い絵を」と、私はこれまでも願ってきたし、これからもそういう画境を目標に描いていきたいと思う」。

梅原猛は「上村松篁の花鳥画は、鳥の世界に移された一種の美人画である」と興味深い感想を述べている。(「アート・トップ」1978年12月号)

母・上村松園「一途に、努力精進をしている人にのみ、天の啓示は降るのであります」と言い、その息子の松篁は「鳥の生活を理解しなければ、鳥は描けない 」と言う。親の姿勢がそのまま子に伝わっている感じがする。いずれにしても、この三代の画家の家系には今後も注目していきたい。