「知研・読書会」ーー古川安『津田梅子』。村上和雄『生命の暗号』。山本七平『勤勉の哲学』。中山祐次郎『俺たちは神じゃない』。寺島実郎『大中華圏』『ユニオン・ジャックの矢』新刊『ダビデの星を見つめて』

古川安『津田梅子』(東京大学出版会)、科学史。生物学。女子教育。

村上和雄『生命の暗号』(サンマーク文庫)。

something great。遺伝子のスイッチ。プラス発想。涙。

 

山本七平『勤勉の哲学』(PHP文庫)。小室直樹の80頁の解説。常識が呪縛になる。

 

中山祐次郎『俺たちは神じゃない』(新潮文庫)。手術室の中。

 

寺島実郎のネットワーク型世界観の三部作が完結。
『大中華圏』。『ユニオン・ジャックの矢』。新刊『ダビデの星を見つめて』。

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「名言との対話」12月23日。安倍能成「現実に触れよとは切実な経験をせよということである」

安倍 能成(あべ よししげ、1883年明治16年)12月23日[1] - 1966年昭和41年)6月7日)は、日本哲学者教育者政治家

愛媛県松山市出身。一高、東京帝大文科大学哲学科に進む。夏目漱石に師事。小宮豊隆森田草平、阿部次郎と漱石門下の四天王とされた。文芸評論、哲学の分野で活躍する。1924年から欧州留学し、帰国後に法政大学教授、京城帝大教授(文学部長)。

1940年に一高校長(57歳)。戦後の1946年に幣原喜重郎内閣の文部大臣(63歳)。数か月で退任後は、帝室博物館長。教育刷新委員会委員長。国語審議会会長。82歳で亡くなるまで学習院院長としてつとめた。

岩波書店『世界』の創刊期の代表、平和問題懇談会の発起人として、平和運動に参画した自由主義者であった。安倍能成の学者としての実績と名声は赫々たるものがある。『復刻版 安倍能成集』(響林社文庫)を手にして、興味のある部分を拾い読みした。

「国語改良について」という文章がある。国語審議会の会長としての発言である。文化の塊である国語のかなづかいと漢字の乱用の解決が必要と論じている。伝統の保存と合理化の両立との考えから、かなづかいの整理と漢字の制限に踏み込んだとしている。この改革については、当時から反対が多数あった。後に安倍は「新仮名としたのは一世一代の過ちであった」と悔いている。国語学者山田孝雄は「一世一代の過ちですむか」と叱責したそうだ。このあたりは、今に続く難題でもあり、どの点が過ちだとしたのかは、今後の課題とする。

「日本人たる自覚」。ユダヤ人は民族性の変則的奇形的発達の実例であり模範にはならないとし、日本の過去のよさを失って、西洋のわるいところをまねた、という反省をしている。

「道徳教育及び「しつけ」について。儒教的道徳のいう「克己」は自由の確立に必要であると同時にそれが自由の成長を妨げないこと大事だと主張している。

さて、教育者安倍能成は、「切実な経験をせよ」と語っている。いかなる経験も世の中の現実に触れる。しかし単なる経験は人を大きく成長はさせない。自分に直接に差し迫ってくる、深く関わっている経験、それは体験と呼ぶべきものだ。自分の体と心で深く体験する、それによって、自分が大きく変化するような体験、それを重ねよということなのではないか。

一人旅で遭遇する体験は命にもかかわることだから切実であるし、恋愛も精神に深く影響を与えるから切実である。また仕事というものは、問題解決がその本質であり、その問題の解決に向けての過程や成果は直接、組織の盛衰や自らの将来にも大きく影響をあたえるから、これも切実である。

考えてみれば、そういった切実な経験の多寡と、それへの取り組み姿勢が、人物の大小をつくるのであるから、与えられる経験もそうだが、自らそういった切実な経験を組み込んだ生活を送るという習慣も重要だ。つまり、教育の本質は自己教育にあるということを安倍能成は言っているのだと思う。第一高等学校で、名校長とうたわれたこの教育者の言葉を大事にしたい。