若い人が多く、この漫ホラー漫画家の圧倒的な人気に驚いた。代表作は『富江』シリーズ、『うずまき』など。映像化された作品も多い。
「図録」では、同年(1963年)のゲームクリエーターの小島秀夫と「誰も見たことのない世界を創る」という対談をしている。小島はシネマティックな映像表現トストーリーテリングのパイオニアだ。二人とも世界的に高い評価を得ている。
以下、伊藤潤ニの創作スタイル。
- 私は紙にせこせこ描いているのが性に合っている気がします。
- 私が本当にぞっとするのは人の顔です。
- 非常に漠然とした、雰囲気に近いものから出発することが多いです。
- ネチネチやっていると、偶然おもしろい展開が生まれるというのがいつものパターンです。
- 私はもうホラーファンに向けてだけ作品を描いています。
- 30年、40年と続けてきたことで、共感してくれる人たちがどんどん増えてきて、今の僕たちを支えてくれている感じがしませんか?
- 人間の生み出したものに価値を見出したい気持ちがあります。内容だけではなく、そこに至るまでの過程や背景も含めて、作品に対する共感が生まれると思うので。
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「名言との対話」8月16日。木田元「若い時に挫折したり悩んだことがない人間は将来伸びないんです」
木田 元(きだ げん、1928年9月7日 - 2014年8月16日)は、日本の哲学者。享年85。
山形県出身。3歳で、満州国の官吏となった父と長春市に移住。1945年、広島県江田島の海軍兵学校に入学し、広島の原爆投下を目撃する。敗戦後、17歳で佐賀、東京を転々、上野の地下道にも野宿。テキ屋の親分に見込まれ、その手伝いで糊口をしのぐ。その後に山形県新庄市の遠縁の家へ。満州から引き揚げてきた家族と母方の郷里の鶴岡市に移る。代用教員、鶴岡市の臨時職員、闇屋と綱渡りの人生で家族を養う。
闇屋で手にした大金を頼りに、山形県立農林専門学校に入学。父のシベリア抑留からの帰国後は読書に耽溺。ハイデカーの主著『存在と時間』と邂逅し、運命の書と直観した。深く学ぶには専門的な学問が必要と東北大学文学部哲学科に入学。特別研究生に選ばれ奨学金で博士課程まで修了。2年間の助手、講師を経て中央大学の専任講師に転出。波乱に満ちた前半生だ。
中央大学教授となった木田は、東北大学で身に着けた、テキストの一語一語をゆるがせにしない真摯な研究でハイデガーやその周囲の哲学者の思想に肉薄していく。メルロ=ポンティの翻訳書で一躍注目された。現代西洋哲学の主要な著作の翻訳と、ハイデッガー、フッサールの研究でも知られる。哲学の著書も、本質をわかりやすい文章で説くと評判をとった。反哲学、反アカデミズムの旗手と呼ばれた。
「東北大学ひと語録」というサイトが以下のように木田の人となりを説明してくれる。
- 「反哲学の旗手」の哲学者。ハイデガー研究から日本人の哲学を探る。喧嘩ならいつでもこい! 海軍兵学校生徒から闇屋、そして、世間に知られた異色の哲学者に。
- ハイデガー研究の第一人者である木田が、なぜ多くの読者を獲得し、その人格まで愛され、社会に影響を与え、人気を集めたのか。、、、 自伝『闇屋になりそこねた哲学者』(晶文社 2003年/ちくま文庫 2010年)が面白い。
- 目標は、3ヶ月で一つの外国語の習得。一日8時間を語学の習得に充てました。1年目はドイツ語、2年目はギリシャ語、3年目はラテン語、大学院1年目にフランス語。そのほかに大学での演習の準備がありますから、一日十五、六時間は勉強をした。
- 彼(ハイデガー)が企てているのは、いわば「哲学批判」であり「反哲学」なのである。ハイデガーが、ソクラテスやプラトンより前のギリシャの哲学者が考えていた自然観「すべてのものは生きておのずから生成するものだ」に「反哲学」のヒントを得た。
最近読んだ池内記『亡き人ヘのレクイエム』(みすず書房)は、新聞や雑誌から、死去を告げられ、書いた追悼文に加筆したもので、28人との交友を回顧し、人物の肖像に仕上げた本だ。著者がみた、その人物の本質をきっちりととらえて書いた、と後書きで述べている。木田元については、「いやな男のいやなところを指摘しながら、同時にその人物の大きさ、天才性をきちんと伝えるなど、なかなかできないことなのだ。他人の悪口を言うとき、おのずと語っているの人となりとスケールが出てしまうのである」と書いている。
「普通の人間は、ちゃんと考えて書かれたテキストを一行一行読みながら、著者の思考を追思考することによってしか、思考力の養成はできそうにありません」。木田元は一行一行読みながら、著者の思考を追思考するしかないと「思考力」を身につける語っている。50年以上にわたってハイデガーの本を読み続けた木田の言だからうなづくほかはないが、しかしそれは誰にもできる方法ではない。日本人の課題とも言うべき「考える力」の養成については、様々な方法論を俎上に載せるべきだと思う。
波乱万丈の前半生を駆け抜けた木田元は、「若い時に挫折したり悩んだことがない人間は将来伸びないんです」と言い、まわり道をしてきた学生をかわいがった。悩みの無い人は成長しない。深刻な悩みを抱える、挫折する。それは成長しようとするから起こることだからだろう。