江國滋(1934年8月14日 - 1997年8月10日)の40代前半あたりの日記である。本と酒と病気と句会の話題が多い。外出時のランチョンはビール1、2杯、自宅では2合から3合という酒量だ。読みながら私などは使えない語彙が豊富でありうらやましく思った。国手、間然とする、はい然たる雨音、禿筆、、、。
江國先生とは、JAL時代に縁があり、上司と一緒に赤坂で飲んだこともある。この時は珍しくカードマジックを披露してくれた。共通の知人で俳句の英語と日本語の名翻訳者だったジャック・スタムが亡くなった話題では、わななきながら想い出を語ってくれた。その時は感じやすい人なのだと思った。
「おい癌め酌み交はそうぜ秋の酒」は、癌に冒された江國が、吐いた名句である。62歳という若さでこの世を去ったが、その前に酒好きだった江國がその癌を友人として捉え、一緒に秋の夕べをしんみりと過ごそうという凄みのある句だ。名句は山ほどあるが、これが最高傑作だろう。
- 新田次郎『河童火事』は中津の「鶴市の碑」に噓を感じて、山国川治水工事の人柱に庄屋の悪妻の奸計を暴く「人柱」を書いている。傘鉾祭りの起源でもある物語の真実は?。これは読まねばならない。
- 『現代史を支配する病人たち』はすぐに読みたい
「勉強」はおもしろい。おもしろすぎるから困るのである」
江國滋が読んで感心した本を以下にあげる。
『私の読書法』(岩波新書)に圧倒される。高橋義孝『叱言たわごと独り言』は鋭い卓見。佐藤佐太郎『竜馬山房随文』は茂吉の言葉が面白い。沢木耕太郎『破れざる者たち』『人の砂漠』に感心。色川武大『怪しい来客簿』に興奮と充足感。小松左京『飢えなかった男』に舌を巻く。山本夏彦『かいつまんで言う』は達意の名文。『タイ・カップ自伝』での「こんなものが野球であってたまるものか?」。伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』に共鳴と羨望。内藤濯翁『落穂拾いの記』にみずみずしい感性。水上勉『流旅の人々』で放哉と山頭火批判に共感。後藤明生『虎氏島』は作文の要諦。戸板康二『ちょっといい話』は絢爛たるゴシップ集。中村明『作家の文体』は面白い。
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『大全』:最後のゲラが到着。駅前のカフェで数時間かけてチェック。その修正は明日行う。
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「名言との対話」11月16日。水の江瀧子「一生懸命おすのが3人ぐらい、反対が7人ぐらいっていうのが、一番成功するんじゃないかな」
水の江 瀧子(みずのえ たきこ、1915年2月20日 - 2009年11月16日)は、日本の女優、映画プロデューサー、タレント。享年94。
北海道小樽市出身。松竹歌劇団第1期生で、ショートカットの髪型で「男装の麗人」と呼ばれた。ライバルの宝塚歌劇のスター・月丘夢路が瀧子の楽屋を訪ねたとき、震えたまま挨拶もできなかったほどの、少女歌劇の象徴的存在だった。愛称は「タアキー」だった。
1953年NHK開局と同時に始まったゲーム番組『ジェスチャー』という人気の長寿番組では紅組のキャプテンだった。パントマイムで、説明の時「この話はいったん置いといて」というふるまいは子供時代の私の記憶にある。『NHK紅白歌合戦』の紅組の司会を二度任されていることでわかるように大物だった。
1955年、日本初の女性映画プロデューサーになる。70本以上の映画の企画を実施し、日活の黄金時代を支えた。岡田真澄、フランキー堺、浅丘ルリ子、山東昭子、中原早苗、和泉雅子、吉永小百合、舟木一夫などを発掘した。『太陽の季節』では、輝いていた石原裕次郎の主演を考えたが、会社の猛反対に会い長門裕之になるのだが、端役を割り当てられた裕次郎をのぞいたカメラマンの伊佐山三郎は「ファインダーの向こうに坂妻(坂東妻三郎)がいる」と感嘆したというエピソードがあり、水の江滝子の眼が正しかったことをうかがわせる。以後、『狂った果実』など裕次郎映画で日活は黄金時代を迎える。若手俳優、若手監督などが集う裕次郎が中心の才能集団をつくりあげた功績は大きい。こういう姿は知らなかったが、ゴルフの安田幸吉が引退後にゴルフ場設計の名人となったのに通じるものがある。
晩年の1993年2月19日には森繁久彌が葬儀委員長の生前葬を78歳の誕生日の前夜に華やかに行って話題になった。“故人”となった水の江は冒頭、「自分の遺影や花で飾られた祭壇を生きているうちに見られるのはとても幸せ」と挨拶。ショパン、グレゴリオ聖歌、ロシアの宗教歌などが流れた。読経は浄土宗、曹洞宗、日蓮宗、コーランなど。それが終わると、78歳の誕生日を祝う「復活祭」に移り、賑やかなバンド演奏が始まった。
感性、触覚がすぐれ、独特の眼力が備わっていた才能豊かな人だった。その資質が大スターとなり、そして大プロデューサーとして花開いた。冒頭の「3割賛成、7人反対」説は、若手を発掘しスターに育て上げる名人だった水の江滝子の新人発掘にあたっての知恵がある。全員が賛成するような、小さくまとまった企画や人物には、爆発力はない。