朝8時:「イコール」打合せ:橘川、田原。どんどん新しい企画が進展。
午後13時半から16時:『革命』の編集作業を都築、近藤と2時間半。
読書
・高橋恵子『西澤潤一を父として』を読了。あまりに壮絶。
・島地勝彦『人生は冥土までの暇つぶし』、もうすぐ読了。あまりに面白い。
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「名言との対話」11月22日。平野雅章「書き始めから終わりまで、おのれの物知らずにさいなまれ、恥をかき書き、たどりつきました」
平野 雅章(ひらの まさあき、1931年1月15日 - 2008年11月22日)は、食物史家である。享年76。
早稲田大学第二文学部心理学科在学中から北王路魯山人に師事し海外旅行にも同道し、料理と美術を学ぶ。主婦の友社に勤務ののち、食物文化史の研究に従事し文筆活動を行う。
テレビの人気番組「料理の鉄人」「トリビアの泉」などで魯山人の弟子として紹介され、審査員もつとめた。
1969年刊行の『食物ことわざ事典』を読んだ。食物に関することわざ、日本人の祖先が体験し、工夫し、確かめ、語り伝えてくれた食生活の知恵のエッセンスだ。1項目2ページで120項目の解説は、歴史、言い伝え、古典の知識、故事、和歌、俳句、料理法などが凝縮されている。一編一編に著者の熱意が感じられると同時にコストがかかっていると思わせる名著だ。
鮟鱇の待ち食い。一膳飯は食わぬもの。うまいものは宵に食え。梅はその日の難のがれ。えぐい渋いも味の中。大きな大根辛くはなし。かかあの顔は三品。午前中のくだものは金。こんにゃくは体の砂払い。酒・飯・雪隠。砂糖食いの若死。サナンマが出るとあんまが引っ込む。しゅんに食べるのが食通。食器は料理のきもの。田作りも魚の中。強火の遠火で炎を立てず。冬至かぼちゃに年取らせるな。土産土法。ないもの食おうが人のクセ。夏は鰹に冬鮪。包丁十年塩味十年。茗荷を食えば物忘れする。、、、。
この本以降、「食べもの」と「魯山人」をテーマとした書物を以下、発表しているのは壮観だ。
『たべもの歳時記』『味ごよみ』『やさい風土記』『美味散策』『美味真髄』『食の文化考』『食べものの四季』『にっぽん食物誌』『たべもの語源考』『熱いが御馳走 食物ことわざ事典2』『日本の食文化』『江戸美味い物帖』『魯山人味ごよみ 味覚の洗練美味の真髄』『魯山人料理の極意』『魯山人料理控 作るこころ、食べるこころ』『食のことわざ歳時記 伝承の食生活の知恵120』『平野雅章の汁物ばんざい! ニッポン汁物博物誌。』『旬の味手控帖』『魯山人美味の真髄 魯山人が究めた食の心とかたち』『和食の履歴書 食材をめぐる十五の物語』『魯山人雅美礼讃』『江戸・食の履歴書』『魯山人もてなしの真髄 もてなしの心もてなしの形』『魯山人御馳走帖』
師匠の北大路魯山人が1960年に「今に諸外国の人間が日本に来ることは、日本の刺身が食いたいためである、と言われるまでに至るであろうことが想像される」と語っている。インバウンド隆盛の今日、その予言をかみしている。日本的なものが世界に通用する時代を迎えているのだ。
『食物ことわざ事典』で、これは、わたくしたち日本人の祖先がみずから体験しくふうし確かめ語り伝えてくれた食生活のエッセンスです」と述べているように、日本人の食生活は、「ことわざ」の中に生きていることを痛感した。
食の分野に限らず、「ことわざ」を含む短いことわざは、人間の知恵のエッセンスであることを改めて思った。できるだけ引き継いでいきたいものである。
この本の「まえがき」には「書き始めから終わりまで、おのれの物知らずにさいなまれ、恥をかき書き、たどりつきました」とある。難産であったことがわかる。本を書くのは、簡単ではないが、『食物ことわざ事典』をしあげる苦労は並大抵ではないはずだ。この本を出版した1969年以降、多くの出版社から声がかかったのは当然という気がする。執筆の過程で、ますます知識が体系化されていったであろう。「たどりつきました」と平野はいうが、実はそこから道が始まったのである。
- 作者: 平野雅章
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1978/04
- メディア: 文庫