「グローバル・リーダーコース」カリキュラム

以下は、日本能率協会マネジメントセンター池渕龍太郎さんが「通信教育講座「グローバル・リーダーコース」カリキュラムを編集して」というタイトルで今月の「知研フォーラム」用に書いてくれた原稿。
このテキストが出来上がった経緯と、意義がよくまとめられている。

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昨年の十二月から取り組んできた、私にとっては大きなプロジェクトが、まずは「ものづくり」として形になりました。
株式会社日本能率協会マネジメントセンターの通信教育「グローバル・リーダー」コースという通信教育講座なのですが、知研理事長で多摩大学経営情報学部学部長を務められている久恒啓一教授に監修・執筆をお願いして、寺島実郎多摩大学学長のアジア・ユーラシアダイナミズム論をふまえて、グローバル・リーダー養成のためのインターゼミの紹介と社会人大学院生の座談会。金美徳教授、趙佑鎮教授、バートル准教授による韓国・中国から見たグローバル・リーダー論、そして、グローバル・リーダーが習得すべき知識とスキルとして、「真・日本人=グローバル・リーダーになるための7条件」と、「図解思考」「人物鳥瞰図」「合意術」という、「アタマの革命(図解思考)」と「ココロの革命(真・日本人)」で、アジア・ユーラシアダイナミズムに立ち向かおう」という内容です。
この企画の立ち上がり時点では、テーマを「グローバル・リーダー」とすること以外、詳細は決まっておらず、具体的なカリキュラム構築から始めることになりました。
そこで、当初は、オーソドックスな欧米流のグローバル化対応を主張する人たちにも話を伺っていたのですが、執筆期間の制約条件(2013年6月までの短期間での開発)や、たとえば、欧米の教育機関の日本支部責任者に執筆を打診したところ、本国に意向を確認した結果、そのような企画を通信教育で行うことに対して自社のメリットが感じられないという返答があったそうで、あまり良い返答が得られませんでした。
そのようないくつかの交渉過程を経た後で、ふと、このところの「グローバル化ブーム」の現象に、いささか疑問を感じてきました。
私は、サラリーマン生活を約三十年間続けてきましたが、新入社員で入社した会社は、1980年代初頭に流行っていた「異文化間コミュニケーション」を標榜する出版社でしたし、その後、翻訳教育を展開する企業に転職した1980年代後半から1990年代前半では、「国際化」や「グローバリゼーション」という言葉がもてはやされた時代で、いわば「第一次グローバル化時代」であったのですが、その直後にバブル崩壊や「失われた十年」が訪れると、いつしかそういった機運も薄れ、所詮「グローバル化」というのも一時的なブームに過ぎないのではないかという意識をもつようになってきました。
したがって、ここ数年前から急に叫ばれるようになった「グローバル化」の要請に対しては、今度こそ一過性のブームで終わらせてはならないという気持ちをもっていました。
また、グローバル化というと、いまだに欧米流のフレームワークやメソッドを中心に語られることが多く、そのような風潮に一石を投じたいという希望をもっていました。
そのような折に、昨年の秋に開催された知研セミナーの後の懇親会で、久恒先生と久々にお話をする機会があり、お話を伺ったところ、先生は多摩大学の経営情報学部の学部長に就任され、寺島実郎学長の明確なビジョンのもと積極的な組織改革に取り組んでおられ、「グローバル・ビジネス」を、大学の柱の1つにしているとのことで、この時は、何か面白い企画が具体化してきたら、是非ともご相談したいという話をしていたのですが、その機会が案外早く訪れました。

久恒先生のブログ「今日も生涯の一日なり」の2012年十二月十四日の記録を見ると、「十三時半。日本能率協会マネジメントセンターの池淵さん来訪。グローバル化対応の相談を受ける。」とあり、この日に久恒先生の研究室に伺い、第一回目の相談をしました。
まずは、テーマが「グローバル・リーダー」であることを伝えると、豊富な企業研修経験をおもちの先生から、現在の日本企業は、特にトップ層が「わが社の社員は、考える力が弱い」と感じていることが多いとのことで、社長や上司からの指示で動くことはできるが、自らものごとを考えて行動に移すことができない社員が多いという悩みを抱えているとのお話を伺いました。
そして、世間では誰もがグローバル企業であると認識されている会社で、先生のライフワークの1つである「図解コミュニケーション」の研修を依頼された時の事例を伺いました。
その企業では、経営不振を打開するための経営改革を、海外からの人材をトップに据えて改革を断行しようとしました。その時に彼が打ち出した施策が、ある組織改革を抽象的な英語によって表現された言葉によるものだったのですが、具体的にどのようなことを実施するかは、日本側のスタッフには明示しませんでした。
そこで、協議を重ねた末に、久恒先生に相談に訪れた結果、その理念を全社員に共有化するために「図解コミュニケーション」研修を全社員に実施するのがよいのではないかという久恒先生からのアドバイスを受けて、五、六年をかけて全社員を対象に研修を実施したところ、めざましい効果を上げたそうです。
その会社では、教育効果を非常に精緻な形で測定しており、その結果もはっきりと効果が上がったことを証明していました。
また、青年海外協力隊等の活動で知られているJICA(独立行政法人国際協力機構)でも、長年にわたり「『図解思考』を用いたコミュニケーション力の向上」研修を実施しており好評を博していると伺い、これは本コースの教育メソッドの決め手になるかもしれないなという印象を受けました。
JICAからボランティアとして世界各地に派遣される協力隊員は、まさにその地域の発展に寄与するリーダーとしての役割が要求されているはずで、「グローバル・リーダー」に必要とされる能力要件を教育されているに違いないと思いました。
先生からは、この研修を受講した赴任予定者からの感想を見せていただきましたが、「非常に有効なコミュニケーションツールを教えていただきました」「現地の人たちと図解で交流するのが今から楽しみです」という感想が寄せられ、ますます確信をもつようになりました。これらのお話を伺って、図解コミュニケーションによってグローバル・リーダーを育成していくことを、教育メソッドの中心にしようと思いました。
ただ、もう1つ、何か「売り物」がほしいと思ったのも事実です。すなわち「何を学習するか」についてです。これについては、後日相談することにして、いったん研究室を後にしました。
ちょうど、この日は、夜に九段下の寺島文庫で知研の講演会が開催され、久恒先生が「人物記念館の旅、五百館を達成して」と題した講演会が行われることになっていたので、夜に再びお会いしますと申し上げた後に、多摩大学が位置する聖蹟桜ヶ丘から電車を乗り継いで、講演会が開催される九段下に向かいました。
知研の「人物記念館の旅、五百館を達成して」と題した講演会は、「知研フォーラム」321号(2013年4月1日発行)に、講演録が詳しく掲載されているので、再読していただきたいのですが、そのお話を伺っていくうちに、「この人物記念館の旅は、全国の近年の日本人の偉人とよばれる人たちの記念館を、久恒先生が自分の足で出掛けて、実際にそこに展示されている事物や、記念館を管理する人たちの話を目と耳で集めた貴重な記録であり、これは何らかの形で世に紹介したい」と思うようになりました。
そして、紹介されている人たちの具体的なエピソードを聴いているうちに、あるアイデアがひらめきました。
この人たちの多くは、主に明治期、それも明治維新という激動の時代を懸命に生き抜いた人たちであり、これは、まさにグローバル・リーダーのお手本として紹介するのにぴったりな存在なのではないか、と。
講演が終わって、久恒先生から、皆さんの感想を書いてください、と言われて、つぎのような感想を、ちょっと図解風に書いてみました。

講演の後は、カフェも営業している寺島文庫で、ドリンクや食事を摂りながら質疑応答が始まるのですが、その時に、食事を取りにテーブルにいらっしゃった先生に「先生、これです。この人物記念館の旅をテキストで紹介しましょう。偉大な日本人は、まさにグローバル・リーダーのお手本ですよ。」と話したところ、「おお、そのとおり! これで行きましょう。これで両輪ができたね。」とご快諾をいただきました。
幸いにも、この「人物記念館の旅」は、先生が長年にわたり「今日も生涯の一日なり」のブログで詳しく執筆されていたので、それをベースにして、さらに、今回の趣旨にそった内容を加筆していただければ、比較的短期間でご執筆いただけることができそうです。
こうして、2013年の1月から3月にかけて、「人物記念館の旅=真・日本人の七条件=グローバル・リーダーになるための7条件」を1つの柱である「ココロの革命」として意識改革を打ち出し、もう1つの柱を「図解思考によるアタマの革命」である思考回路の改革として打ち出すというカリキュラムが構築されました。
そして、さらに「序章」では、多摩大学学長である寺島実郎氏の最新著作『大中華圏』の世界情勢認識や歴史意識を久恒先生がまとめた図解をもとに解説していただくという、非常に?贅沢?な学習項目を盛り込むことができました。

テキストでは、これらの「アタマの革命とココロの革命」に加え、多摩大学で教鞭を執る金美徳教授、趙佑鎮教授(以上、韓国)とバートル準教授( 中国 )によるリーダー論、多摩大学と韓国企業の国際交流事例「多摩日韓科学技術フォーラム」の取材事例、多摩大学の「グローカル人材養成講座」の試みである「インターゼミ(社会工学ゼミ)」の紹介と大学院修了生である企業人の座談会、JICAで実施されている「『図解思考』を用いた国際コミュニケーション力の向上」研修の紹介、さらに、コラムでは、「グローバル・リーダーには日本酒の知識も必要」と題して、久恒先生と世界的な音楽家であり著名な日本酒愛好家でもある富田勲先生との交流会の模様を紹介するなど、非常に盛りだくさんな内容となりました。

さて、このような過程を経て6月に開講した「グローバル・リーダー」コースですが、現在は「ものづくり」を終えて、なるべく多くの方々にこのコースの存在を知っていただき、普及に努めるべき「ことづくり」の段階に差し掛かっています。
先日、「グローバル・リーダー」コースの詳しい説明会を、関西のお得意先企業と、弊社内の関西と中部の拠点で実施した結果得られた実感というか、ある「確信」が芽生えてきたことをご報告します。
まず、今回、本コースの3つの視点である、「アジア・ユーラシアを主たる対象とするグローバル・リーダー論」、「図解思考による日本独自の新しい国際言語のグローバルな舞台での活用」、「グローバルな世界でリーダーとして活躍するためには、真の日本人になるべきである」という久恒先生の主張は、特に、既にリーダーとして広い 視野を保持している人たちにとって、その重要性をより強く共感していただけるということでした。
結果として、役職で、企業のトップや幹部層、管理者層の人たちなどの上位者になればなるほど、そのような「見晴らしのよい視野」をもっており、その人たちが痛感している問題意識や危機感に、本コースの主張が1つの「解決策」を提示しており、「こういう教材を待っていました」という声を多数いただけたことは、何よりも勇気付けられる思いがしました。
一方、そういうトップや幹部層、管理者層が抱いている問題意識や危機感とは裏腹に、そこで働く多くの人たちは、現実問題として、自分たちの周囲の環境では、まだグローバル化を十分に実感する場面が少なく、なんとなく「ゆでがえる現象」とよばれるような、いわば「ぬるま湯」にまだ浸かっていたいという意識が強いというのが実情だと思われました。
しかし、自分たちの身の周り、たとえば、コンビニエンスストアや居酒屋で働く店員の多くが、既に外国、それもアジア圏の人たちに替わっていることに代表されるように、5年後、十年後の日本では、様々な職場で従業員が外国人に置き換わっていて、国内においても「グローバル化」が進展している状況になっていくことは間違いないと思います。
そして、5年後にグローバル化が本格的に進展して、その時点で急にこのような問題に取り組んでいこうと思ったとしたら、もうその時点では完全に出遅れてしまうと思います。
なぜならば、これからどんどん日本にやって来る外国の人たちは、既に自国が置かれている状況(自国内での貧富の差や経済状況の限界等)を十分に自覚したうえで、日本という「市場」にねらいを定めて活路を見出そうと来日してきた訳で、これまでのような「ぬるま湯」的な状況に慣れ親しんでいる意識をもっていては、その人たちに対してとうてい太刀打ちできないと思われるからです。
そのような実感のもと、本コースの役割を改めて考えていくと、本コースは、これまでの欧米中心の「グローバル・リーダー論」から脱却して、日本人が真のグローバル化を進めていくために必要な「ココロの革命(真・日本人)」と「アタマの革命(図解思考)」を促そうとするものであり、この提言をよりいっそう訴えかけていこうと思った次第です。
また、先日開催された、六月二十日の知研講演会、孫崎亨先生の講演「日本の自主外交をいかに実現するか」の終了後、会の恒例となっている、有志での孫崎先生を交えた懇親会が催され、講演会での「公開情報」では得られない「非公開情報」も披露されておおいに盛り上がり、そのやり取りの流れで、「グローバル・リーダー」コースのテキストを孫崎先生に進呈したところ、手に取るなり、これはいいですね! というお言葉を頂戴しました。
特に「アメリカ主体のものの見方からいかに脱却して、世界情勢を見極めるか」という、寺島実郎氏が主張された視点や、「明治時代の偉人の人物像をお手本にして、これからの日本人が進むべき道を考えることができる点」を高く評価していただきました。
これからは、まさに、孫崎先生をはじめとする現代のグローバル・リーダー、真のオピニオン・リーダーのご意見を伺いながら、本コースの普及に努めていこうと思います。

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●「グローバル・リーダー」コースカリキュラム紹介(目次より)
序章 グローバル・リーダーに必要な「歴史意識」と「アジア・ユーラシアダイナミズム」の理解
1 「歴史意識」「世界情勢認識」をもつことの必要性・アメリカを通した世界観からの脱却。
2 日本を取り巻く世界情勢を理解する 大中華圏・香港・ステルス国家台湾・バーチャル国家シンガポール
第1章 グローバル化に直面している日本企業が抱えている課題
1 公開データから見る日本企業の課題(求められる社員・求められるスキル)
2 企業研修を通じて見えた日本の課題(考える力の不足・図解コミュニケーション・日本への理解)

第2章 グローバル・リーダーになるための7条件(その1)
手本となる人物を見つける
1 仰ぎ見る師匠の存在(福沢諭吉小泉信三渋江抽斎北里柴三郎白洲正子
2 敵との切磋、友との琢磨(鈴木大拙武者小路実篤草野心平高村光太郎岡本太郎
3 持続する志(原敬羽仁もと子古橋広之進牧野富太郎藤田喬平

第3章 グローバル・リーダーになるための7条件(その2)
4 怒涛の仕事量(渋沢栄一寺山修司古関裕而古賀政男阿久悠手塚治虫石ノ森章太郎
5 修養・鍛錬・研鑚(新渡戸稲造・安岡生篤・二宮尊徳本多静六
6 飛翔する構想力(後藤新平松下幸之助高田屋嘉兵衛嘉納治五郎
7 日本への回帰(岡倉天心南方熊楠東山魁夷棟方志功

第4章 アジアの視点による「グローバル・リーダー論」
地政学的戦略・教養・環境適応力

第5章 ビジネスパースンがグローバル化に対応する技量を学ぶには
1 図解コミュニケーション能力を身につける
2 人生鳥瞰図でライフデザインを描く
3 合意術を身につける

付章1 グローバル人材育成の取組?
1 取組事例 JICA(国際協力機構)での国際協力人材赴任前研修「図解思考を用いた国際コミュニケーション力の向上」
2 日韓企業の国際交流事例

付章2 グローバル人材育成の取組?
1 創造的問題解決を志向する「インターゼミ」
2 インターゼミ修了生による座談会。

●受講期間 2ヵ月/在籍期間4ヵ月
●教材構成
・テキスト1冊
・レポート提出・添削2回、コンピュータ添削型と講師添削型の組合せ(ともにWeb提出可)
※コンピュータ添削型レポートは、テキストで学習した知識を“ 徹底確認”する基本問題です(全50問)。
※講師添削型レポートは、ロングケースを含む応用問題です。
●受講料金 15,750円 (税込)

●お問い合わせ先
株式会社 日本能率協会マネジメントセンター
通信教育事業本部 受講者相談窓口
 0120―43―1011(フリーダイヤル)(平日9〜19時)
 tsukyo@jmam.co.jp
http://shop.jmam.co.jp/learning/1278873_1442.html

●「グローバル・リーダー」コースの立ち読み機能はコチラです。
http://www.jmam.co.jp/tsukyocatalog/course/mqn.htm

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午後は、企業で講演。今日の「目からウロコ」は一人。