落合陽一『デジタルネイチャー』

落合陽一『デジタルネイチャー』(PLANETS)を読了。『魔法の世紀』に続き、本人が精魂込めて書いた重要な書だ。以下、ポイントと思われる個所をピックアップ。

デジタルネイチャーの世界観とは何か?

  • IOTの先に「詫びた」世界観として構想したのがデジタルネイチャー。
  • デジタルネイチャーとは、人間中心主義を越えた先のテクノロジーの生態系だ。人間と機械の境目、生物学と情報工学の境界を越境した自然観が構築されていく。
  • 人間中心主義から「機械と人間のハイブリッド主義。そして「知能による自然」への変化。
  • デジタルは生物に固有の情報演算形式。情報科学と神経生物学は観察対象として隣接領域になった。
  • 華厳経の宇宙観、世界観。この世の万物は縁起によって関連し合っている。すべてが究極的には一体となっている。
  • オープンソースの世界と資本主義の精神が拮抗し、両者の生存戦略が模索されている計算機自然の世界。両者の間の活発な交流が起きている。
  • 限界費用の低下と分散型システムによって、多数のオルタナティヴが生成される。多様な価値基準を容認しうる世界への転換。
  • 国家とプラットフォームに二重の搾取構造の中に我々はいる。新しい植民地支配。格差は拡大し、労働から解放された「楽園」側と、プラットフォームに徴税される「奴隷」側に二極分化する。インターネットによる新しい帝国。この状況を覆す可能性があるのがリナックスなどのオープンソースの思想である。
  • AIが世界を統治するのではなく、コンピュータ・サイエンスの研究者があらゆる分野に進出するのだ。
  • 多様性が、効率性や合理性を保ったまま、コンピュータによって実現される世界。そこでの人々の生き方は、BIか、VCかである。機械の指示のもとに働くベーシックインカム的な労働(AI+BI型・地方的)。それは社会主義に近い。市場拡大の恩恵を受ける人間。機会を利用して新しいイノベーションを起こそうとするベンチャーキャピタル的な労働(AI+VC型・都市型)。それは挑戦的なビジネスに取り組む世界だ。市場の拡大を目指す人間。二極化する。
  • 知的生産に携わる人間に必要なのは、非画一的な仕事のポートフォリオや、問題解決のための手法論だ。ワークとライフ境界がなくなる「ワークアズライフ」になる。
  • リスクとモチベーションには強い相関関係がある。最大の格差はモチベーションとアート的な衝動を持ちうるかの格差だ。アート的モチベーションの格差をいかに埋めていくか。
  • 現実と虚構の区別もつかなくなる。宗教に近い価値観が残る。幸福や死についての概念の意味も変化する。
  • 手を動かすことが意味を持つ。身体性。
  • イノベーションが短期間でリセットされ、常にゼロベースの競争を余儀なくされる世界。
  • インターネットは知識と技術の下駄だ。インターネットは全体主義的になっていく。
  • 生涯の全記録をいつでも取り出せる。タイムマシン。相手によって自動的に敬語に変換する。空間自体を再生することで情報を伝える。

 

デジタルネイチャーの世界でどう生きるか?

  • AIの分野では、データとデータの相関関係性に目を付けるセンスが重要。
  • 継続的に新しいテーマにコミットし続ける能力を持て。
  • 絶え間なく学習にいるアップデートを続け、さらには複数の専門職を掛け持つポートフォリオマネジメントを前提とした働き方を考えなければならない。
  • 習得コストが下がったため、いつビギナーとして学び始めても、一定のレベルまでは到達できる環境が整っている。
  • アリではなく、キリギリス的な生き方をとろう。リスクを取って得意分野を追求し、弱点は環境を変えることで克服すればいい。自らの才能に賭けて命がけで好きなことを追求し、その成果で南国に移住すればいい。
  •  今現在、即自的に必要なことをリスクを取ってやれるかどうかだ。できることをやる。やったことによって事後的に「自分らしさ」が規定されていく。すべきことより、やりたいことだ。
  • 実践者としての価値が、思想とともに重要になる。考えながら手を動かし、思想を語り、波を作る。日々、集中力の高い、永い現場を、高速で切り替えて、積み重ねる鍛錬だ。
デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂

デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂

 

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・午前:大学で仕事

・午後:八王子で所用

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「名言との対話」5月22日。石橋博良「気象革命」

石橋 博良(いしばし ひろよし、1947年1月5日 - 2010年5月22日)は、日本の実業家。株式会社ウェザーニューズ創業者。

千葉県生まれ。北九州大学国語学英米学科を卒業後、安宅産業に入社する。仕事の醍醐味あったが、マネーゲームだと感じ、1970年に担当していた船舶が海難事故に会い、船乗りの命を守ることに人生をかけようと決心する。民間海洋気象情報会社・オーシャンルーツに入る。1976年、29歳で日本支社の代表取締役。安全と効率の両立という使命感を持って仕事をする。1980年、本社の副社長で1年6か月のアメリカ生活を送る。

気象予報が無くてなならないのは次のような事例を聞くとわかる。仕出し弁当会社には午前一時に翌日の代々木公園の午前5時からの気象の予報を出す。プロ野球の後楽園スタジアムは1時間3-4ミリ以上の降雨の予測で試合中止するからその予報を出す。朝日放送の「ニュースステーション」では、気象庁の言葉以外で伝えようとし、選択指数、傘指数、ビール指数などを発明した。

1986年、本社の赤字部門を1.8億円で買い、365日24時間体制で「あなたの気象台」としてのウェザーニューズ社を創業する。データベースをきちんと整備し、最適な形で情報を提供するためにエキスパートシステムをきちんと構築し、リスクコミュニケータという業界の知識をきちんと持った予報技術者を育成するに没頭することを続けた。

JAL、ANAを顧客としてAIによる航空エキスパートシステムを10年かけて完成する。ディスパッチャーという名前の運航管理者の入社でリスクコミュニケータが1994年にデビューした。気象と経済活動の思わぬ相関関係があることを発見する。冷夏になると目薬が売れるのは子どもたちがプールに行く回数が減るからだ。エルニーニョ現象がアンチョビの不漁を招き、かわりにアメリカ産大豆の需要が増え、結果的に日本の豆腐の値段の高騰を引き起こした。コンビニでは天気や体感温度で商品の売れ行きが変わるから予報が大事になる。リスクコミュニケータは「横浜市港北区の午後6時から午後11時までの総降水量は150ミリ」との情報を提供できる。顧客の言葉に翻訳し情報をグラフィックに変えて提供する。農業はもはや天気まかせではなく、気象データを用いて作物の生育予測が可能であり、また病害虫駆除の処置も可能で1キロ四方の精密さで病害虫の発生予測をしている。

1993年、オーシャンルーツ社の全株式を取得し、「お天気は眠らない」をモットーとした世界最大の気象情報会社となる。以下の様に気象に関するあらゆるデータを集めている。世界各国の気象庁発表のデータ。世界中の空港気象データ。高層観測データ。アメリカ海軍の収集した気象データ。ヨーロッパ中期予報センターの数値予報データ。宇宙からのデータ。日本の気象衛星ひまわりからのデータ。気象庁のデータ。1300か所に設置されたアメダスからのデータ。全国20サイトの気象レーダからのデータ。ウェザーニュー社独自の観測データ、気象庁も持たない雷データ。風向・風速、気温、海水温、気圧、降水量、雲量、雲形、河川水位、海氷、波、台風、ハリケーン、、、。30分前のガイアの体温と脈拍を感じる仕事である。

気象とは「全体」と「部分」の精妙な関連であるから、東京という部分と地球という全体で予報が可能になる。天気を稼業とする人間はボーダーレスの仕事をしているのだ。この気象情報を相手にするビジネスは、まさにビッグデータ時代の寵児であると思う。

石橋は夢を語っている。すでに小学校の学区単位で予報、局地予報が可能になっている。1日10円、1年3650円で、自宅の空の天気予報を出したい。双方向になると全国に人間アメダスがいることになる。アジアの気象情報システムづくりという夢もある。情報民主主義の世界を創り出す。それができたらリタイヤし、北海道でダービー馬を育てる。しかし、志半ばで倒れることになるが、育てた仲間が石橋の志を継いでいる。

2010年、南極観測船「SHIRASE」の第二の船出を宣言したグランドオープンから20日後、石橋は永眠した。余命3か月の宣告だったが、このプロジェクトを遂行することで命の火を燃やし2年6か月を生き抜いた。石橋博良は気象革命の旗手だった。 

新版 世界最強の気象情報会社になる日 (IDP新書)

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