「小説 王陽明」(上下)を読む

王陽明という人物とはいずれ向かい合わなくてはならないとずっと考えてきた。

陽明の書いた書物もいくつか買って眺めてみたことも何度かある。しかし、なかなかその思想の本質まで迫った感じはなかった。


芝豪という人の「小説 王陽明」(明徳出版社)上下巻を手に入れて読み終わった。思想の発展の様子が本人の心境、環境、遭遇する事件、ライバルとの問答、弟子とのやり取りなどの中で、エキスとして現われてくる。思想は本人の成長とともに変化、回転、成熟していくものだろうから、書き表した書物からだけではなかなかわからない。人物を身近に感じながらその発展の経過を知ることができるので、この小説・評伝という形式は優れた表現方法であると感じた。


後に「知行合一」で知られる陽明学と呼ばれるこの聖人の学は、すべての人に初めから備わっている良知を磨き続けること(「至良知」)が大切であるとする。そのために「事上練磨」を強調した。この考えは、朱子学朱子自身が恐れたように訓詁学に堕した)と対立する一大思潮に育っていく。日本でも、大塩平八郎佐藤一斎河井継之助安岡正篤などの流れになっていく。

こういう文脈の中で王陽明のことを理解していたのだが、陽明は軍事にも抜群の能力を発揮している。それは諸葛孔明の働きを髣髴とさせる見事なものだった。


王陽明は波瀾万丈の生涯を57歳で閉じている。

この書はもういちど読み直したい。



小説の中から少し。

・格物は物に格(いた)るではなく、物を格(ただ)すとすべきだ

・職務に即して学を進めるべきだ。それこそが真の格物、つまり物を格す(ただす)ことだ

・人間の活動はすべてが事上練磨の対象。功夫を重ねることによって良知が磨かれる

・平天下、治国、斉家、修身、正心、誠意、到知、格物

・山中の賊を破るは易く、心中の賊を破るは難し

・狂者(よいと思うことを行き過ぎを懼れずに行う者)

・兵は惟れ凶器、已むを得ずしてしかる後に用う