リレー講座:寺島実郎「現代日本にとっての宗教」

リレー講座。寺島実郎学長。テーマは「現代日本にとっての宗教」。

トピックス:アメリカ大統領選:来週の講師は渡辺恒雄で詳しく。バイデンが限りなく当選に近づいている。分断のアメリカ。青いアメリカは東西の海岸線。青いアメリカは内陸で、日本人が知らないアメリカ。トランプは白人ナショナリズムのあだ花、いら立ち、困惑、焦燥感、痙攣・4年前は白人は6割を切り、マイノリティが4割を超えた状況。2019年現在で白人58.3%、マイノリティ41.7%。3回選挙をすると逆転。アメリカのキーワードは「抑圧的寛容」。弱い相手には寛大、強くなった相手には猜疑心、嫉妬心、逆上。90年代のジャパンバッシングはそれだった。1968年当時にトランプは「女と金」を追いかけていた。10兆円をつぎこんできた三菱重工の中型旅客機MRJの開発断念、凍結は、アメリカの型式証明を取れない。自動車でやられた、ジェット旅客機ではそうはさせないということ。

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 ・「17世紀オランダからの視界」の連載は2010年から10年。歴史の鏡を磨く。座標軸を持つ。「20世紀とは何か」をテーマに1900年の先人の足跡を追った。「若き日本の肖像」「21世紀と格闘した先人」。「戦後日本の総括と令和の課題」をテーマに「日本再生の基軸」。「人類史における近代をふり返る」をテーマとして、宗教と日本を連載中。

 ・64回「現代日本人の心の所在地」:心の支えはどこに? 信徒の人数は仏教8535万人、神道8614万人、キリスト教192万人、その他774万人で計1.8憶人(文化庁の「宗教年鑑」)。結婚は教会、初詣は神社、葬式は仏式。グッドラック宗教、お守り宗教。宗教を信じない人は増えている、しかしお守りや軌跡を信じる人も増えている。(NHK調査2018年)。戦後日本は宗教なき時代に。

・戦後日本人が信じたのは」「PHPの思想」。繁栄を通じた平和と幸福。アメリカの物量に負けたという総括をした。実際は米中連携に敗れたのだ。松下幸之助井深大本田宗一郎土光敏夫などの経済人が今は不在。1990年年代からの平成時代に日本の没落が始まった。GDP比は16%、現在6%、20205年に4%に。PHP思想だけでは向き合えない。

・地球46億年前、ウイルス30億年前、人類20万年前(アフリカ)、グレートジャーニー6万年前、日本列島到着3-6万年前。

・日本人は仏教、儒教神道の総合の中でつくられてきた。アニミズムの八百万性の神社神道と明治以降の天皇親政を支える天照大神を祀る伊勢神宮国家神道は違う。2・26事件、天皇機関説批判、、、。全国の神社は神社庁に組み込まれた。そして近代国家体制へ。9条に自衛隊を書き入れようとする自民党憲法改正論者には国家神道復権を考えている人々がいる。アジアがどうみるか。コロナの時代に天皇が言葉を出さないのはまぜか? 国民統合の象徴としての象徴天皇制にこだわっている。それは2000年の歴史の本質だ。

アニミズムからフ偶像崇拝へ。アイドルは偶像、ブランド。1万年前に定住革命で農耕が始まる。2500年前に世界宗教が誕生。内側の唯識論に向かった仏陀の仏教は、加上による救いを重視する大乗仏教に変質。孔子儒教は「それ恕か」。利他心によるコミュニティ、そして宗教心が誕生。天皇家はずっと仏教徒だった。泉湧寺。空海の立体曼荼羅は宇宙観。天皇さえも灌頂を受けたていた。その仏教は法然親鸞の登場によって民衆仏教へ。日蓮、武士道の新渡戸、、。

・どこに機軸を置くか。宗教、哲学、思想という価値の基軸が必要。少なくともキリスト居、イスラム教、仏教について知って、自分で展開して欲しい。AI、DX、コンピュタは「認識する力」。目的合理性、最適解、総合知。損得。人間には「意識する力」がある。美学。愛、友情、、。最適合理性だけではない存在。仏教の五識、八識。ここまで到達すると人間観、社会観が変わる。偉大なもの、大きなものの眼がみつめている。

(帰宅後、63から67までの論考を読んだ)

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午前:総研の松本先生:総研の今後。

13時半から寺島学長と懇談。近況報告と今後のこと。

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「名言との対話」11月5日。金子鷗亭「異国趣味の清算は時代の意欲である」

「誕生日編」で2017年に既に「芸術には進化はないんです。芸術は変化があるのみです」というタイトルで鴎亭について次のように書いている。

金子 鷗亭(かねこ おうてい、1906年5月9日 - 2001年11月5日)は、北海道松前郡生まれの書家近代詩文書を提唱した。文化勲章受章者。

 五稜郭の近くにある北海道立美術館で「鷗亭記念室」を見学したとき、啄木の歌と水原秋桜子の歌を書いた鴎亭の書が展示されていた。ゆるやかな仮名文字、人の体の線をなぞったような漢字、、。この人の書は、江戸東京博物館井上靖記念館、史蹟松前城国木田独歩詩碑などの題字になっている。

現代書でもっとも広く浸透したのは金子の漢字かな交じり文の近代詩文書である。現在では金子創設し創玄展は、わが国最大級の書展となっている。
毎年の全国戦没者追悼式の標柱の揮毫はこの人の書だった。1952年に第一回を書き、1963年から1993年までの実に31年間にわたって書き続けた。1952年の57歳から、最後に書いたのは88歳の時だった。60歳頃からは毎朝5時に起き散歩をして健康状態をベストにしてこの仕事を続けようとした。
この人によれば、「明」という字は、窓から月の光がさしこんでものが見えるという意味だそうだ。

金子は漢詩・漢文などの異国趣味を排し、日本の口語文・自由詩・短歌・翻訳等の詩文を新たに題材とすべきであり、また書の表現も現代にふさわしい表現とするべきだと言って賛同者を増やした。時代に応じた変化を主張したのだ。

 以下は、2007年の訪問記。五稜郭の近くにある北海道立美術館で「鷗亭記念室」を見学。金子鴎亭(1906−2001年)は松前出身の書家で、「近代詩文書」を提唱。啄木の歌と水原秋桜子の歌を書いた鴎亭の書が展示されていた。ゆるやかな仮名文字、人の体の線をなぞったような漢字、、。この人の書は、江戸東京博物館井上靖記念館、史蹟松前城国木田独歩詩碑などの題字になっている。毎年見ている全国戦没者追悼式の標柱の揮毫はこの人の書だった。1952年に第一回を書き、1963年の57歳から1993年の88歳までの実に31年間にわたって書き続けた。1952年の46歳から、最後に書いたのは88歳の時だった。60歳頃からは毎朝5時に起き散歩をして健康状態をベストにしてこの仕事を続けようとした。この人によれば、「明」という字は、窓から月の光がさしこんでものが見えるという意味だそうだ。「金子鴎亭--近代詩文書の開拓者」(斉藤千鶴子・北海道新聞社・ミュージアム新書)を購入したい。

今回、『評伝 金子鴎亭』(毎日新聞社)を読了した。

10歳の時に、「勤勉努力、健康幸福」と書き、「甲の上々、3重丸」をもらった。それで人生が決まった。サラリーマンと書家の二刀流ですすんでいく。「私の不器用は母方かたのさずかりもの、不器用が本性」と自嘲する。その手は骨太い節のある手である。  1936年から鴎亭を名乗った。故郷・松前の海辺で朝夕に鴎の声を聞いて過ごしたことに由来する。

これからの書道界はこれまでの漢字、かなのほか、大衆に愛される近代詩文書を新しく創造しなければならないと思い、これに自分の一生を懸けようと心に決める。近代詩文書運動の道を歩んで行く。栄子夫人は1973年没し、後に1935年生まれの寛子夫人を迎えている。

井上靖の詩「黄河は巨大な龍である」から始まる「黄河」、「北魏という北方からやって来た民族の正体はよく判っていない」から始まる同じく井上靖の「交脚弥勒」を評伝でじっくりと見ることができた。伝統の書に創意と工夫を加え、雄麗剛毅な面と華やかで繊細な情感を漂わす、振幅の広い表現による独自の書風である。黒澤明の映画「蜘蛛巣城」題字、そして日本酒『一ノ蔵』のラベルも揮毫している。また鴎亭は後進の指導、団体の育成に優れた指導力、統率力を発揮し、さらに国際交流を積極的に推進している。

 80歳、道立函館美術館開館。館内に鴎亭記念室が開室。書作107点、美術品等374点(鴎亭コレクション)、美術関係図書419冊を寄贈。郷里に書の王城を建築する思いがあったのだろう。81歳、文化功労者。82歳、訪中展、訪ウイーン展団長。83歳北海道開発功労賞。84歳、文化勲章。12985年の伝統派・西川寧に続き、1990年は現代派の鴎亭が文化勲章した。「近代詩文書の運動を進めてきた同志を代表して受賞したものと思う」と述べている。毎年国民が見ていた全国戦没者追悼式の標柱の揮毫は、幅45Cm、長さ4m50cmの桧材で一発勝負であった。

「過去及び現代の書道界は漢詩句をあまりにも偶像視した。これでなければ書の素材とならぬかの如く考えた者が多いが偏見もはなはだしいので大いに排撃しなければならない。今後の日本書道界はその表現の素材として、我等日常の生活と密接の関係にある口語文・自由詩・短歌・短章・翻訳詩等をとるも差支えはない。古典を望むならば我国の古典を採るべきで、源氏物語枕草子万葉集徒然草、皆書の素材として恰好のもののみである。異国趣味の清算は時代の意欲である。書そのものを現代のものとすると同時にその素材をもまた現代の希求する国語となすべきである」。

ここにも「からごころ」を排する同志がいたことを発見した思いだ。鴎亭は95歳で没。