「オペラ嫌いに襲いかかるめくりめくオペラの愉しみ」(サントリーホ

午後に行われた多摩大学リレー講座の第8回目はジャーナリストの江川紹子さん。テーマは「新聞の読み方・テレビの見方」。イラク問題など豊富な事例を挙げながらの説明していただいた。
メディアと接するには、?情報環境を知る、?メディアの傾向を知る、?個々のメディアの特徴を知る、?メディアとの付き合い方、という4つの段階がある、との話だった。
1では、チャンネルは多いが大量の単一情報があふれていること、情報源が分かりにくくなっていること、広告会社の関与が出てきていること、を挙げた。アメリカの発表を信じて使うという日本のメディアの傾向にも触れて、また愛国的でないという非難を避けるためにメディア自身が自己規制していく傾向にも警告。
2メディア全般の特徴とひて、「わかりやすさ」を求めていることをあげ、ビジュアル化はいい面もあるが、識者に要求されるコメントが短くなってきてること(20秒)や新聞の記事の大文字化による記事情報量の低下(半分近くの新聞も)、白黒・善悪・対決構造という単純化が好まれ、理屈よりも感情に訴える傾向を指摘。
4メディアとの付き合い方では、情報源の確認、複数の情報源にあたる、発信者の特性を強調。

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19時からは赤坂のサントリーホールでの二期会の「愉しみの刻(とき)」の第四夜に行く。
「オペラ嫌いに襲いかかるめくりめくオペラの愉しみ」というテーマで、オペラの名アリア、名場面を二期会の若手名歌手たちの演奏によって楽しんだ。「復讐の心は地獄のようにわが胸に燃え」(モーツアルト オペラ「魔笛」より)は森美代子。始まりからきつい表情で、復讐に燃えた戦いの歌を歌う。目や表情が険しく凄い迫力。
「鐘の歌」(ドリーブ オペラ「ラクメ」より)も森美代子。非常に高いソプラノでのどの奥から出てくる声、目力、表情に圧倒される。口の開け方、表情の作り方など千変万化だ。全身を使って声を出す。2列目の中央席だったが、こんなにまじかにオペラの熱唱をみたのは初めてだったので、目を凝らして聞き入った。
「闘牛士の歌」(ビゼー オペラ「カルメン」より)は、与那城敬。さっそうとしたバリトン。最初から客を飲んだ態度、表情。オペラ歌手は目で勝負、という印象。
「手紙の歌」(チャイコフスキー) オペラ「エフゲニー・オネー・ギン」より)は大隅智佳子。水色の衣装で歌うラブレター。恋する乙女の心の乱れ、想いの深さ、心の変化、哀愁、やるせなさ、が豊かな声量と演技で表現される。女性オペラ歌手は女優である。歌い終わった後の和やかな表情が印象的。
「恋とはどんなものかしら」(モーツルト オペラ「フィガロの結婚」より)は、池田香織。名曲中の名曲。笑顔。
「花から花へ」(ヴェルディ オペラ「椿姫」より)は大隅智佳子。遊びまわろうという心情。
「呪わしき美貌」(ヴェルディ オペラ「ドン・カルロ」より)は、池田香織。人を傷つけ、騒がす自らの美貌を呪うという設定。マイクなしでよくこういった声が出ると感心。オペラ歌手の体は楽器である。全身を使って歌う。
「夕星の歌」(ワーグナー オペラ「タンホイザー)より)は与那城敬。ゆったりした曲。縦に伸びる口の開けかた、目の豊かな表情、眉や眉間の表情、立ち方などに見入る。ピアノ伴奏の山田武彦の弾いているピアノは、スタンウェイだった。
休憩の後の第二部は、「黒髪の彼にするわ」(モーツアルト ペラ「コジ・ファン・トウッテ」より)は、森美代子と池田香織の二重唱。二人の姉妹の恋の悪だくみを見事に表現。二部はドラマティックなものを選んである。
「オネーギンとタチアーナの二重唱」(チャイコフスキー オペラ「エフゲニー・オネーギン」より)は、大隅智佳子と与那城敬。男が女に切ない恋をするが女は悩んだ末に拒絶する物語。男の切ない、情けない表情が上手だ。オペラは視覚と聴覚で楽しむ芸術だ。重唱は面白い。演技のうまい俳優。男女の最後の絶叫が素晴らしい。
このサントリーホールの小ホールは300人定員だが、8割がたは埋まっている。ピアノの山田武彦の演奏。ワーグナーのライトモチーフを解説し演奏。
「オルトルートとフリードリヒの二重唱」(ワーグナー オペラ「ローエングリン」より)は、池田香織と与那城敬。男女二人の悪だくみのストーリー。女性の妖術使いの表情がうまい。
最後は「元帥夫人とゾフィー、オクタヴィアンの三重唱」(R・シュトラウス オペラ「ばらの騎士」より)は、大隅智佳子・森美代子・池田香織の盛大な三重唱。17歳の男、32歳の女、15歳の女の三角関係。3人が違う歌詞、違うメロディーで違う心をばらばらに歌いながら、全体としては不思議に重なり合って鳥肌が立つような感動を与える有名なシーン

このプログラムの監修と司会は、樋口裕一。多摩大学の同僚だが、幼少時代からクラシックん学に親しんでいて、「頭がよくなるクラシック入門」「笑えるクラシック」などの音楽関係の著作も多い。今回は誘ってもらったので妻と一緒に参加した。ゲストの漫画家さそうあきらは、「シロイシロイナツヤネン」、「神童」「マエストロ」などの作品をもつ人で、京都精華大学マンガ学部の専任教員。神童はピアニストの物語、マエストロは指揮者の物語で、音楽に詳しい。この二人の掛け合いで短い解説付きで山場だけを存分に堪能できた。
このプログラムのタイトルどおり「オペラ嫌いに襲いかかるめくりめくオペラの愉しみ」を味わった。今まで大ホールでのオペラも見てきたが、2列目という席で、そして解説付きだったのは初めてなので、存分に楽しむことができた。