この戦略的人生を見よ

k-hisatune2009-05-03

私は、はじめから、文学というものは実業による経済的な防波堤の内側でなすべきものと決めていた。(村野四郎)


やりたいことをやるためには、貧乏に耐える心構えがなければならない。そういう常識を詩人たらんとする若き村野はとらなかった。経済的な裏付けがなければ、やりたいことは常に風前の灯のように揺れてしまう。まずは実業で位置を確保する。その上で誰からも干渉されることなく志に沿って創造の世界に入っていく。会社の重役という経済的防波堤をまず築き、その内海で自由に飛祥し、詩人として歴史に名を残す。この戦略的人生を見よ。

                        • -

私は精神的に弱いので、逆にそれを人にさらけ出して、どうしてもやらざるを得ない状況に自分を追い込んでゆくのである。(植村直己


不世出の冒険家の口から出るこのこと言葉に驚きと安堵をおぼえる人は多いだろう。危険を冒し続ける人はすぐに挫折をするだろう。危険を察知し、対策を立て、実行する人には、すでに危険は去っている。冒険家は危険を冒さない人である、ということかもしれない。

                                                  • -

こは長きも二十行を限りとし短きは十行五行あるは一行二行もあるべし(正岡子規


「墨汁一滴」には、食べ物の薀蓄、歌に関する知識、人物胆、俳句、万葉集賛歌、闘病の苦しさ、少年時代の思い出、漱石のこと、試験の話など、優れた批評精神と好奇心のおもむくままに書いたエッセイは、豊饒な精神生活を感じさせる。テーマ、スタイルなどが多彩にひろがっていて、子規の世界を堪能させてくれる。随筆にみる子規は実に魅力的だ。現代のブロガーは子規に学びたい。