新著「人生の道を拓く言葉130--偉業をなしとげた人々の『志』」

日本経済新聞出版社の編集者の石橋さんから、多摩センターの京王プラザホテルで、来週刊行される新著の見本をいただいた。昼食時だったので、二人で乾杯する。私にとっても思い入れの強い仕事だったが、出来栄えには満足している。表紙のデザインは斬新だ。多くの人に、今読んでもらいたいと思う。http://www.amazon.co.jp/dp/4532196000/ref
タイトルは、新著「人生の道を拓く言葉130--偉業をなしとげた人々の『志』」(日経ビジネス人文庫)。オビは、「時空を超えて勇気と元気を与えてくれる先駆者(パイオニア)たちの想い」

以下、「文庫化にあたって」。

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本書は2009年7月に出版した単行本「志 KOKOROZASHI」(ディスカバー21社)を偉人の言葉はそのままに、その人物らしいエピソードを加筆するなど解説を大幅に加筆して文庫化したものである。
 この短い2年間にも時代は大きく動いている。2009年8月の民主党政権の誕生への過剰な期待とその裏返しとしての失望、そして2011年3月の地震津波原発事故と続く東日本大震災の発生と混乱の日々の真っただ中に私たちはいる。
 2005年から本格的に始めた私の「人物記念館の旅」も、430館を超えてきた。訪問の対象は明治・大正・昭和の近代の人物が多いのだが、1923(大正12年)の関東大震災に遭遇している人が多いことに改めて気づく。この関東大震災は多く人の人生行路に大きな影響を及ぼしている。

 政治家・後藤新平は、震災の直後に組閣された第2次山本権兵衛内閣で、内務大臣兼帝都復興院総裁として「復旧ではなく、復興する」とした震災復興計画を立案し、道路や公園などを中心に現在の東京の骨格をつくった。
 実業家・原三渓は、横浜復興会の会長として市民を励まし、復興を実現した。
 民俗学者柳田国男は、大震災を契機に本筋の学問のために起つことを決意した。
 弁護士・布施辰治は、大震災で朝鮮人が大量虐殺されたことに怒り、朝鮮人の支援と、独立を助ける活動を開始している。
 歌人与謝野晶子は、源氏物語の現代語訳に挑んだ4千枚の原稿が震災で焼失したが、その後気を取り直して再び執筆を開始し遂に完成させている。
 三菱財閥・三代目の岩崎久弥は、大震災にあたって邸宅を開放し2000人以上の難民を一か月以上にわたって世話をしている。
 挿絵画家・蕗谷虹児は、次々に出版される少女雑誌の震災特集、震災画集に被災した人々の様子と復興の女神などを繊細なタッチのペン画で書き続けた。
 小説家・吉川英治は、当時勤めていた東京毎夕新聞社の社屋が焼失し、社業再開の見込みがたたず解散する憂き目にあっているが、その後「剣魔侠菩薩』を『面白倶楽部』誌に連載、作家として一本立ちしていく。
 後の名優・大河内伝次郎は、大震災で会社が倒産、人生観が変わり宗教書を読みふける。その後劇作家を目指すなどの遍歴を経て、大スターへの道を歩み始める。
 白樺派のリーダー・武者小路実篤は、創刊した雑誌「白樺」を160号まで続けていたが大震災で中止せざるを得なくなった。しかしこの雑誌は同年代の多数の作家を生み出した。
 歴史家・徳富蘇峰は、逗子で津波に遭遇するが、その間も庭でライフワーク「近世日本国民史」を書き続けた。

 関東大震災に遭遇した先人たちは、一人ひとり深刻な影響を受けているのだが、それぞれの持ち場で懸命に運命に立ち向かっている姿がひしひしと伝わってくる。
 
このたびの大震災によって、営々と築きあげてきた近代日本文明は歴史的な転換期を迎えているように思う。  
 今改めてこの本で取り上げた先人の言葉をかみしめると、2年前とは違った意味や示唆を感得できる気がしている。
 先人が遺した言葉にはやはり大いなる力がある。
本書が、道を切り拓く一助になれば幸いである。