宮家邦彦「語られれざる中国の結末」(PHP新書)

宮家邦彦「語られれざる中国の結末」(PHP新書)を読了。

語られざる中国の結末 (PHP新書)

語られざる中国の結末 (PHP新書)

現代中国を東アジア・西太平洋の新たなパワーシフト(力関係の変化)という観点からとらえて中国の将来シナリオについて大胆に予測した本だ。米中衝突の可能性とその結果としての中国の結末はどうなるのか、、。

中国発展モデルの4類型。こうした欧米式政治学的アプローチ分析には限界。

  • 繫栄は民主化を促進する:熟柿モデル。希望的観測。このシナリオは早晩、破たんする。
  • 繫栄は独裁を強化する:反中派唱えるモデル。中国軍事大国モデルと現状継続モデルに分化、共産党独裁の統治能力に過大評価はできない。いずれ説得力を失う。
  • 独裁は長続きしない:失政、衰退で混乱。民主化進展モデルと無政府状態モデルに分化。中国批判勢力のシナリオ。やや現実離れの見方。
  • 結局、独裁は続く:一種の北朝鮮モデル。長期間続く可能性は低い。

アメリカと中国はそれぞれ軍事衝突を起こそうとする意図は低いが、それでも誤解や誤算によってサイバー空間や宇宙空間での先制攻撃が発生する可能性はある。戦争や戦闘は起こりうるが中国の敗北で短期間で終わる。

衝突後の中国の結末に関する予測。

  • 中国統一
    • 独裁温存シナリオ(共産党独裁モデル)
      • サブ:覇権争いに中国が勝利。第一列島船が境界線に。実現性は低い。
      • サブ:引き分け・敗北。ほぼ現状維持。情報コントロールができるか。
      • サブ:政治責任をとり新たな強硬な独裁。可能性はあまり高くない。
    • 民主化定着シナリオ(米国主導の民主化、中国超大国モデル)
      • 中産階級民主化の担い手になる。党内民主制。香港・台湾・米国の中華系主導。世界最大の民主国家。日本はアジアに周辺に、アセアンは中国南部経済圏に吸収。これは実現不可能。
    • 民主化失敗と再独裁化シナリオ(ロシアのプーチンモデル)
      • 最終的に少数政治エリートによるメリトクラシーに回帰。可能性は十分にある。
  • 中国分裂
    • 民主化定着シナリオ(資源のない中華共和国モデル)。円満に分裂。実現可能性に懐疑的。
      • 漢族国家と少数民族の高度自治・国家樹立。人口が少なく資源豊富な内陸と人口は多いが資源の少ない漢族国家。
      • 北京・上海・広東などを首都とする複数の漢族中心国家群。
      • 分裂中小国家群の連邦、国家連合。
    • 民主化失敗と再独裁化シナリオ(ロシアのプーチンモデル)。民主化成功シナリオよりは実現可能性は高い。
      • 北京中心の漢族国家と少数民族国家。
      • 複数の漢族中心国家群。
      • 分裂した中小国家群の連邦、国家連合。
    • 一部民主化と一部独裁の並列シナリオ(民主と独裁の並列モデル)。混乱した状況。
    • 中国漢族・少数民族完全分裂シナリオ(大混乱モデル)。春秋戦国時代に近い。理論的可能性の一つ。ないとは言い切れない。カオス状態。

以上を踏まえて著者は現時点でもっとも可能性が高いのは、中国統一・独裁温存・現状維持のシナリオだとする。
仮に中国が敗北しても、内政上の悪影響を最小限に抑え、中国の統一と共産党の政治的権威をほぼ現状のまま維持するシナリオだ。当面共産党指導体制はゆるがないが、いずれ国内情勢は不安定化する。分裂する場合でも韓民族は一体、チベットウイグルなどは分裂。漢民族が分裂した場合、中国人民解放軍がその程度軍としての統一を維持できるか。特に核兵器保有の有無がカギとなる。

中国は外圧では変わらない。内側から変わるのを待つしかない。
「弱さ」「脆弱さ」「傷つきやすい」のが中国人。

以下まとめ。

  • もっと実現性の現状維持シナリオの場合は、中国共産党の指導体制は当面揺るがないが油断は禁物。日本は中国の国内情勢、一般庶民の動向に注目すべきだ。
  • 中国分裂の場合は、大陸と一定の距離を置く「島国同盟」を基本とすべきである。大陸の安定を維持し深入りをせず、共通の戦略的利益を有する国との同盟を維持し、貿易に活路を見出す同盟。アメリカはユーラシア大陸をのバランスオブパワーを軸に、欧州はイギリス、アジアは日本と協力する戦略をとってきた。
  • 韓民族の分裂という最悪のシナリオの場合は、複数の漢民族国家と適切な関係を維持し、韓国(または統一朝鮮)を含む大陸での勢力均衡をはかるべきだ。

経済面では10年以内に中国経済は質的変化が起こりうる。
それに対処するにも日本経済はもう10年、活力を維持していることが重要だ。
カザフスタンなど中露が関心を持つ中央アジアで思い切った投資や外交イニシアティブを進めること。

尖閣に中国が武力行使をして米軍が動かなければ、その時点で日米同盟は消滅する。中国の挑発の際は自衛隊自身が血を流す覚悟で立ち向かわず米国に戦ってくれと頼んだ時点で日米同盟は終わる。
日本が先に手を出さす、自衛隊が戦う覚悟を見せた場合には、アメリカは躊躇しつつも対日防衛義務を守るだろう。

普遍的価値と日本の伝統主義との折り合いをつけることができるのは、日本の「保守」だ。保守主義を進化させなければならない。

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本日が命日。
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