「名言との対話」が2000日に到達。

2016年1月1日以来、本日まで書き続けてきた「名言との対話」。6年目が半分過ぎて、2000日を超えてきました。過去5年分は5冊の本になっています。

何ごとも続けることによって、進化していきます。

ゆったりしたレイアウトで478ページだった2016年版の「命日編」から、文字を小さくし詰めたレイアウト625ページある2020年版の「戦後命日編」まで、内容は量も多くなっていますが、質的にもしだいに濃くなってきています。

優れた生涯を送ったさまざまな分野の日本人のモデルを2000人みたことになります。この人物エッセイには、私自身が対象とする本人に会ったこと、本を読んだことなど個人的な体験、そして名言に関する私自身の感慨なども書くようになってきましたから、自分史という面も出てきました。もはや、ライフワークになってきた感があります。

プロ野球選手の「2000本安打」の領域に入ってきた感じがします。今年の「大正から昭和へ 誕生日編」をさらに続けていきます。

 

f:id:k-hisatune:20210704072917j:image

 ーーーーーーーーーーーーーーー

夜は、久しぶりに「深呼吸学部」の講義に参加。

ーーー

「名言との対話」7月2日。渡辺一雄「サラリーマンとは、地雷が埋めてある戦野を腹這いになって進むようなもの」

渡辺 一雄(わたなべ かずお、1928年7月3日 - 2014年12月8日)は、日本の作家評論家

京都府生まれ。旧制大阪商科大学(現在の大阪市立大学)卒業後、百貨店大手の大丸に入社する。今回読んだ『悪い奴が出世する方法』(ワニの本)の著者紹介によれば「部長から課長に降格、課長から主任に降格」とあるから、凄まじいサラリーマン人生を送ったことは容易に想像がつく。在職中の47歳であった1975年にデパートの内幕を描いた『野望の椅子』で日本作家クラブ賞を受賞している。そして辞める1980年には『退社願・株式会社大丸社長殿 だから、私は会社を見限った』を出版している。相当な猛者である。

渡辺は企業小説を中心に意欲的な創作活動行った。以下、タイトルだけを並べてみよう。どういう社会観、会社感、考え方かがよくわかるだろう。

『帯に燃える』『野望の椅子』『職業としての百貨店マン 新たな旗手よ出でよ』『失脚』『打算の帳尻』『乗っ取り戦争』『会社を喰う』『小説相互銀行』『秘書室』『流通戦争』『頑張れ!会社人間 仕事と人生-90のヒント』『上司よ!喜びを我と 企業の中の人間模様』『退社願・株式会社大丸社長殿 だから、私は会社を見限った』『帝王 長編企業小説』『復讐の椅子』『恐喝社員 ピカレスク・ロマン』『ダイヤ・ウォーズ 業界サスペンス小説』『デパート商法の秘密 百貨店は復権できるか』『忍耐だけがサラリーマンではない 男の生き方とは何か』「我慢する社員はダメになる」『ビジネスマン・雌伏の論理 不遇に負けない生き方の研究』「サラリーマン悪い奴だけが生き残る」『巨悪集団』『サラリーマン万事塞翁が馬 花に嵐のたとえもあるさ』『小さな店だから勝ち残れる "小"が勝つための30章』『西陣おんな一代』『叛骨の譜』『入社試験必勝法 自分の「商品価値」を高めるための15章』『名門崩壊 長編企業小説』『京都小判鮫商法 長編企業小説』『京都サミット商法』『出社に及ばず』『打算』『若き大阪バイタリティ 明日を迎え撃つ男たちの素顔 人物ドキュメント』『男の値打ちが決まるとき サラリーマン哀楽帳』『銀座デパート戦争』『ピンチをチャンスにした男』『あ丶紅の血は燃ゆる 慟哭の歌』『京都霊廟殺人行』『巨億の構造 華道家元手形乱発事件』『黒い遺産』『悪い奴が出世する法 サラリーマンの逆襲 上司に媚び奸智の強者となれ』『小説日本航空』『背任重役』『崩壊の軌跡』『国際マネー都市・東京の挑戦』『残酷な昇格 サラリーマン小説傑作集』『捨て扶持社員』『そごう西武大包囲戦略 売り上げ日本一をめぐる水島との激突』『ダイエー中内が生協に恐怖する理由 「安さ」と「安全」の激突』『翼竜の逆鱗に触れた男』『委員長失脚』『会社のここだけは知りなさい 若い社員諸君への警告 組織は恐ろしい人間の集まりだ』『課長の操 サラリーマン小説傑作集』『巨悪は嗤う』『サッポロビールの大逆襲 攻めの企業戦略を明かす』『二世経営者の勝ち残り戦略 企業の未来を左右する』『報復倒産 長編サラリーマン小説』『野望挫けず』『悪玉志願』『秀和は西武を見限り、なぜダイエーに走るのか!? 21世紀の流通業界はこうなる』『女性社長たちの華麗な経営』『善意の報酬 連作サラリーマン小説』『部下を幸せにする上司不幸にする上司』『欲望派遣社員』『空洞会社』『財狼の群れ』『小説・流通三国志』『浮沈社員』『ヤオハンの奇跡 多国籍流通グループ』『悪党王国』『腐蝕会社』『悪党係長』『出向人事』『辞表撤回』『二世経営者の育て方 成功と失敗の研究』『百貨店が無くなる日』『悪党主任』『哀愁あれば歓楽もあり』『会社潰し』『華麗なる挑戦 小説・ワコール王国』『小説「翔べ!そごう」』『百貨店が蘇る日』『物流疑惑』『リストラ粉砕!社員の逆襲』『悪党課長』『悪党たちの宴』『会社は社会の預りもの "武田長兵衛"に学ぶ経営戦略の神髄』『新風 ある百貨店の挑戦』『冷血商人』『悪党人事』『この指とまれ ある起業家の挑戦』『極悪商人』『血ぬられた商標』『秀吉を操った男』『ビジネス悪知恵本 ここまできている常識破り ルールなき生き方・総集編』『復讐商戦 新宿デパート戦争』『悪党の凱歌』『悪徳の惨劇』『真田幸村風雲録』『百貨店崩壊す』『負けるな!小売店 大を食う小の発想法』『売り手よし買い手よし世間よし 近江商人成功の哲学』『辞令無残』『議員詐欺師』『再建社長』『封印された名君 豊臣秀次』『逆襲!リストラ軍団』『債券投機』『小説「そごう」崩壊』『怒りおさまらず 非人道的リストラとの15年の戦い』『起死再生』『頭取の犯罪』『悪党同盟』『住友の大番頭伊庭貞剛』『闇支配人』『宜候鬼籍に入るその前に 12人の元海軍兵学校生徒たち』『「乱」大塩平八郎』『金融植民地』『明治の教育者杉浦重剛の生涯』『天罰人事』『田村高廣の想い出 日本人への遺言』『ほんまもん 京都商法と津田佐兵衞(井筒八ッ橋六代)』

1976年から2006年までの30年間で120冊だから、年間4冊という途方もないハイペースで、書き続けた。テーマは「サラリーマンの生き方」だ。

今回読んだ1986年刊行の『悪い奴が出世する方法』(ワニの本)では、当時の話題になった企業のことが出てくる。安宅産業の崩壊、日商岩井の海部八郎に仕えた部下のこと、三越の騒動、教育評論家のケース。そしてJALの機長管理職制度もやり玉にあがっている。1987年には『小説日本航空』という本もあるが、私は読んでいない。

日本航空で組合の委員長として波乱の生涯を送ることを余儀なくされた伝説の人・小倉寛太郎を描いた山崎豊子沈まぬ太陽』がベストセラーになったとき、私はすでにJALを退社し、仙台の大学で仕事をしていた。この小説を読んだ母親からは、「お前はこんな会社で働いているのか」と非難された。また仙台で少し親しくなると「あの小説は本当ですか?」と問われるのが常だった。私の答えは「組合史観からみると、ああ見えるでしょうね。会社からみると違う風景がある」というものだった。『』

『悪い奴が出世する方法』には、「ご存じでしょうか?」ではなく、「ご存じでしょうが」と前置きをせよ、などというノウハウ(渡辺は、手口と呼んでいる)など、うなずけるものがある。

渡辺一雄の場合は、いじめられる側からの視線に徹底して描いている。権力を持っていじめる側ではない多くのサラリーマンが感じる悲哀について書いているから、共感を呼び続けたのだろう。

子ども社会のいじめより、サラリーマン社会での「いじめ」の方が深刻だと渡辺はいう。社会に出るといじめがはびこっているから、子ども時代にはもっといじめられた方がいいという識者もいて、驚いたことがある。確かにそういう面があることは否めない。

「地雷の戦野」とはうまいことを言ったものだ。私が40代半ばで会社を辞めると可愛がっていただいた元の上司に電話で報告した時、「なぜだ。金か、女か、俺が始末してやる」といわれたことを久しぶりに思い出してしまった。たしかに会社には地雷が埋まっている。その地雷を避けながら、目的地に向かって進まねばならない。正攻法で進んできた私は渡辺一雄の思想にはもろ手をあげて賛成はできないが、ある種の真実があることは認めることにしよう。