「21世紀 日本の自画像」(NHKラジオ)--元旦から3夜連続の気合

新春特集としてNHKラジオ第一放送が意欲的な番組を3夜連続(21時30分から23時)で展開している。
元旦の初日は「安心と希望の社会」。進行は木村知義アナで、3夜連続の出演者は寺島実郎
今回のゲストは慶応大の金子勝

・日本社会は豊かさと自由を得た。にもかかわらず不安と苛立ちの中にあり、幸福ではない。
ワーキングプアを年収200万以下とすると(生活保護世帯が届かない数字。失業手当は200万以下)、2007年の最新データでは、正規雇用労働6400万人のうち年収200万以下は2190万人(34%)、つまり三人に一人になった。
非正規雇用労働者1742万人のうち、12998万人(75%)、つまり4人に3人が200万以下。
(労働者8132万人の43%の3488万人が生活保護世帯や失業者レベルに近い年収200万以下という現実)
・原因は、IT化とグローバル化。IT革命によって仕事の中身が変化した。仕事の平準化が行われ熟練を必要としない労働が増加した。つまり労働の喜びが得にくい作業への従事だ。グローバル化によって起こったのは、メジャーリーグに松坂(年収10億円)に代表されるスキルとノウハウの高度化したかけがえのないハイエンドの仕事と、中国はじめ途上国でもできるため賃金が下に引っ張られるローエンドな仕事の増大の同時進行という二極化である。
若者の労働環境は変化し、新しい貧困、新しい格差が生まれている。
生活保護世帯107万のうち、高齢者は44%。
・日本の社会保障は人口増加を前提とした後世代負担とインフレを想定していた。しかしすでに毎年70万人が減っていくという少子高齢社会が始まっている。ナショナルミニマムに代わってローカルミニマムという議論もでてきた。各地域地域での最適水準で暮らしなさいという考え方である。社会保障制度の底がすでに抜けている。
・わかりやすいフラットな社会保障制度と年金・医療・介護などのシームレスな連携が必要だ。公正な社会制度の設計が必要。
社会主義が崩壊した1990年あたりから資本主義のおごりが生じた。資本主義の勝利えはなく社会主義が自壊したのだ。
労働組合の存在という緊張感がなくなった。労組の組織率は20%をきっている。700万人を擁する「連合」は大企業正規雇用者と公務員が大部分となって、雇用の現実に立ち向かう力を失った。労働組合としての新しい動きが必要である。
・こういった時代にあって、個人は受身ではいけない。力のあるNPOを育てていくべきだ。生活のための仕事と、感動と充実のためのNPO活動など、多彩な生き方、働き方が大事だ。産業界は新たなプラットフォームを提供うべきだ。自動車産業以降の新しい有望産業は見当たらない。事業、プロジェクトの受け皿となるプラットフォームをつくり中間層のしっかりした国をつくらねばならない。
・創造的環境を設計し、人を育てる。いい意味での帰属意識のある参画型型市民社会の構築と、見識・度量・方向感覚を備えた覚悟と展望を持ったリーダーを育てなければならない。
・今、日本の金は外国に流れ、日本へは外資が投資をしている状態。1200兆円の個人資産を日本のために使う智恵が必要だ。

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2日の夜は、地域の自立・活性化がテーマだった。
寺島。、そしてもう一人のゲストは一橋大学関満博

・日本には雇用の場がなくなった。
・右肩上がりを前提とした分配の構造が成り立たなくなった。それが地域間格差につながった。
・エネルギーと食料という基盤産業は惨憺たる現状。エネルギーは外から買ってくる、食糧自給率は4割。農業はGDPの1%、農業人口は4.4%しかない。これは日本全体のバランスの問題だ。
・3兆円の地方への移譲、3兆円のカットという三位一体改革の結果は、首都圏のみ黒字で、35県のますますの赤字を招来した。これへの地方の怒りと反発が先の参院選挙に現れた。
・日本には人材しかない。故郷に人が戻る流れ、それに事業が追いかけてくるという人材立地の提案。アジアではできない研究開発型のアナログのワザと技能。
・先端的アカデミズムとの連携が重要。
・移動人口で人を引き寄せ、活力を出す
・九州全域の観光協会が連携するなど広域連携の出現。県内に2つの政令指定都市がある県が4つとなった。(福岡・静岡・・・)県の機能とは何か?という議論になる。
・祭りができなくなってきた。
・中央との関係の見直し。地方同士は知恵比べの時代。一方で大きなプラットフォームをつくることが大事だ。
・志、命がけで取り組む人づくり

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ラジオというメディアはじっくりとテーマを追うという企画には大きな力を発揮する。
正月のテレビ番組には見るべきものはほとんどないが、こういう企画を行うなどラジオには存在感がある。NHKは「ゆく年、くる年」で数年番組をつくってきたが、今回の企画と人選と内容は出色である。

3日の夜も楽しみだ。