波頭亮「成熟日本への進路--「成長論」から「分配論」へ」

波頭亮「成熟日本への進路--「成長論」から「分配論」へ」(ちくま新書)を読了。

成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ (ちくま新書)

成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ (ちくま新書)

以下、メモ。
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  • (国家)ヴィジョンが無いからダッチロールする。
  • 求められる国家ヴィジョン転換のインパクトは、「富国強兵」、「大東亜共栄圏」、「所得倍増」、「日本列島改造論」に匹敵するものと心得る必要がある。
  • 今の日本が置かれている状況。
    • 成長フェーズから成熟フェーズに移り、従来型の国家ヴィジョンと実現のための方法論は無効化した。
    • 新しい国家ヴィジョンが示されていないが故に、政策はダッチロール、将来の見通しがたたず、不安が増大している。
    • 成熟フェーズにあって国民が豊かで幸せな生活をおくることができるような社会のしくみと運営のあり方を示す新しい国家ヴィジョンが必要だ。
  • 90年代以降1%成長、一人当たりGDPは95年までは日本の天下、それ以降は下降の一途、労働(労働人口・労働時間)・資本(貯蓄率低下)・技術(労働生産性最低水準)と成長因子は消失した。
  • 国民が政治に望むことは、1位は「医療・年期等の社会保障構造改革」(72.8%)、2位は「高齢社会対策」(57.2%)。
  • 今後国家が提供すべきサービスは、「国民に、医・食・住を提供すること」だ。これは新しいタイプの社会インフラである。
  • 医療費34兆円の85%は社会保険料と税金でカバーされており、自費で払っているのは4.8兆円。
  • 総介護給付費は6.4兆円だが、9割は介護保険と税金でカバーされており、個人の追加費用は0.6兆円。
  • 最大の不安である医療と介護の完全無料化のための追加コストは合計で5.4兆円にすぎない。歯止めが効かなくなって2割増しになっても追加コストは13.5兆円。
  • 生活保護費用は10.4兆円、医療費・介護費が2割増しになると仮定し医療・介護で13.5兆円、合わせて約24兆円あればいい。
  • 安定財源である消費税の10%のアップで確保できる財源は22兆円となり、追加的コストはほとんど賄える。
  • それ以外に、金融資産課税の導入(土地と同じ1.4%)で、個人金融資産1400兆円から徴収できるのは毎年約20兆円。税率1%だと14兆円。
  • 相続税は、遺産額の50%とすれば税収は毎年14兆円。金融資産課税と相続税によって社会階層の固定化を防げる。
  • 特別会計埋蔵金公務員制度改革、無駄排除によって、毎年20兆円が期待できる。合計では80兆円の原資が確保できる。
  • 成熟化時代に取るべき経済政策は、「産業構造のシフト」である。具体的には社会保障・福祉サービス産業の充実・拡大(内需型)と高付加価値型の輸出産業(石油や食糧の輸入代金を稼ぐ)の育成である。
  • 新しいヴィジョン実現のための政策の中心テーマは「どう分配するか」である。成長論から分配論への政策の転換である。
  • 医療分野での雇用創出は250万人。医療ニーズが増す10年後には現在277万人の3割増しの雇用が必要。ドイツ並みの水準だと医師19.1万人増など合計124万人の追加が必要。2020年のニーズに対応すると250万人。
  • 介護分野の雇用創出は130万人。医療と介護で合計380万人の雇用増が必要となる。
  • 大学医学部の定員の倍増
  • 介護事業就労者(15-18万円)は他の7割程度。月給水準を最低でも1.5倍の22-27万円にするための追加的コストは1.4兆円。2倍の30-36万でえも2.8兆円。就労希望者が2倍になっても政策コストは4−5兆円に過ぎない。
  • 外貨獲得はハイテク型環境関連が本命。原子力発電、水関連、電気自動車(2015年で12兆円)
  • 「高福祉だからこそ自由経済」。高福祉と雇用保護のセットは危険。セーフティネットが失業給付、生活保護、医療・介護の無料化。
  • 教育への投資は経済競争力の重要な関数。日本はGDP比5.0%(OECD平均5.7%)。今後の主力産業はIT,バイオ、金融など高度知識集約産業。高い知的水準人材は産業インフラ。
  • レクチャー、リーク、サボタージュで官僚は大臣の指揮・監督を有名無実化する。司法は行政にケチをつけない。三権の中の頂点に立つ行政。
  • 行政裁量権とデータの独占による「実質的な政策決定権」(どのような数字も作りだせる)、人事自治権と共同体ルールによる「組織的結束力」(天下り先確保・財務省)、ブラックボックス化した特別会計(官僚のサイフ・財政法)による「莫大な資金力」、メディアの掌握(官僚のポチ「記者クラブ制度」)による「プロパガンダ機能」が日本の官僚システムの特長。
  • 官僚機構の改革戦略。政治=官邸が官僚の人事権を掌握すること。特別会計を透明化・解消すること。
  • 日本の予算規模は一般会計と特別会計を合わせた207兆円。ストックで50-96兆円、フローで毎年10兆円捻出可能。

(価値観と方法論について自分なりの転向があり。19年ぶりの社会論。1991年「新幸福論-国富から個富へ」。)