服部龍二「大平正芳 理念と外交」--だえんの哲学と永遠の今

服部龍二「大平正芳 理念と外交」(岩波現代全書)を読了。

大平正芳――理念と外交 (岩波現代全書)

大平正芳――理念と外交 (岩波現代全書)

服部龍二は大仏次郎論壇賞を受賞した「「日中国交正常化---田中角栄大平正芳、官僚たちの挑戦」(中公新書)でそのそ存在を知った政治学者。
服部はこの本を書くために大平関係の本と資料を全部読み込んでいる。巻末の参考文献は300冊近い。

大平正芳(1910-1980)は、外交をライフワークとした哲人宰相であった。
戦後の外務大臣としては最も在任期間が長く、また実績も素晴らしかった。
盟友の田中角栄の支持を得て総理に就任したのはようやく68歳の時である。大平は何度も好機があったにもかかわらず、田中角栄三木武夫福田赳夫に先を譲っていた。大平は外遊の無理がたたって70歳で総選挙の最中に亡くなっているから在任期間も2年であった。
四国の香川県観音寺市の記念館には昨年訪問して、読書家であった大平の蔵書をのぞいたことがある。佐藤一斎の「言志四録」も愛読書だった。また大平は文章家でもあった。

座右の銘は「一利を興すは一害を除くにしかず」。

大平外相は、韓国とは経済協力によって請求権問題を解決し、国交樹立の糸口を開いた。最大の懸案は日中関係だった。日本と中国は大晦日と元旦にように近いようで遠いと発言している。
日中航空協定締結時には「幕末の井伊大老ではないが、八つ裂きにされてもやる」と言って成功している。
日中国交正常化にあたって周恩来が賠償請求を放棄してくれたことに感謝し、対中借款に力を入れた。

  • 均衡と中庸。だえんの哲学。物事には二つの中心があり、どちらかに傾斜することなく、中正の立場を貫くのが重要である。統制と自由、権力と国民、課税者と納税者、、、、。
  • 生涯の節々にその支点となっている「永遠の今」、その「永遠の今」に恵まれた決意によって身を処し、その決意によって織りなしてきた自分の人生絵巻、、。
  • 神が「永遠の今」という時間を各人に恵み給うたことは、自分は自分としての永遠に連(つが)る寄与をするよう期待されてのことではないでしょうか。まず自分の自分なりの確立が大切です。それには、その根幹を貫くバック・ボーンがなければならない。それは自分の勉強と思索と反省から生まれて、不断に成長する自分自体の方法論であろうと思います。これなくしては、私共は歴史から疎外されてしまい、その形成に参加する資格がなくなるわけです。
  • 共産主義も弾圧ではなく、大きく呑み込み解毒しつつ消化しなくてはならぬ。
  • 人間というものは、閑職にあるときこそ勉強できるし、人との交際も密になって、いろいろと得られるところが多い。
  • 栄辱は天に問い、進退は命に従ってまいるべきだ。
  • 立派なものはこの世の中にはないと思う。私は改革ということに対して、その点についてはややニヒルでしてね。
  • だまされても、それが国のためならいいじゃないか。

参考文献から。