『文芸春秋』7月号から。
- 河合雅司「2020年の出生数は84万人。2021年は75万人(ベビーショック元年)。2020年代は一気に60万人台に突入か。人口減少と、一人当たり消費額も減少(高齢化)、病弱高齢者の増加(コロナ禍)のトリプル縮小。戦略的縮小。生産性の向上、高付加価値化。人生設計の重要性が増す。生活コストの戦略的縮小を。
- 沈壽官「伝統は革新の堆積である」
- 田辺聖子:700冊以上の著書。「日記は書けば書くほど、心の中が整理され、頭も澄み渡って来る」
- ニューヨークタイムス。契約がこの1年で200万件増加。
「名言との対話」6月19日。木村汎「人間学的アプローチ」
木村 汎(きむら ひろし、1936年6月19日 - 2019年11月14日)は、日本の政治学者。
木村は京都大学で猪木正道に学んだロシア研究の第一人者だ。北海道大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。専門はロシア政治、日露関係。
木村汎「プーチンとロシア人」(産経NF文庫)を読んだ。
ロシア人を対象とした「人間学的アプローチ」である。2017年12月刊行のこの本は1980年の『ソ連とロシア人』の大幅改定版である。
ロシアのプーチン大統領は2000年に登場し2024年までその地位にとどまる可能性がある。47歳から71歳までだ。この間日本の総理大臣は森首相から菅首相まで9人を数えている。
プーチンは自分を「私は、人間関係の専門家なんだよ」と説明している。落とそうと考えた人物を必ず籠絡する、人たらしの名人である。上司には極端なまでに忠実な印象を与えるという能力を持って権力を掴んできた。
就任以来ゴルバチョフ、エリツィンの改革の引き戻しを行ってきたプーチンは2013年には「保守主義」を採用するとした。オフィスにはピョートル大帝の肖像画が掲げられている。プーチンはミニ・ソ連の再建を目指している。
木村は、ロシア研究において、思想、システム制度といった面から研究する客観的アプローチと、文学を中心とする印象論の分裂している好況に鑑み、この2つを結びつける方法を模索している。それを人間学的アプローチと名付けている。
プーチンはまずロシア人である。120から150の民族からなる多民族国家ロシアについて、まずロシア人という一般論を展開した。エリートはソビエト的であり、大衆はロシア的である。そのエリートの代表としてのプーチンを分析するという方法だ。
ギリシャ正教はあの世においては神に仕えることを勧める。そしてこの世においては地上のツアーリに仕えよと説く。プーチンが最近ギリシャ正教に重点を置いているのはここにあるようだ。
指導者も人間である。生い立ちや出会いや出来事によって価値観が形成されるという仮説を私は持っている。その価値観に沿って人は現実の問題の解決にあたろうとする。だから指導者がどのような政策を採用し、実行するかという鍵は、価値観を探るところから出発すべきである。指導者の性格や能力や関心事項の前提として人間学的アプローチが必要だ。
アメリカのトランプ、中国の習近平らの指導者の分析にも有効だと思う。プーチンは四半世紀に及ぶ長い間、大国ロシアを引っ張り、世界に大きな影響を与え続けてきた。ロシアの動向は米中関係にも大きな影響を与えるから、この本は大きな意味を持つであろう。
「人生鳥瞰図」と言う方法論を持っている私は、木村の人間学的アプローチという野心的方法論に共感した。