今村将吾『塞王の盾』ーー「最強の盾」と「最強の矛」の戦いを描いた至高の作品。

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今村将吾の直木賞受賞作『塞王の盾』をオーディブルで19時間かけて聴き終わった。

舞台は戦国時代。どんな攻めをもはね返す石垣と、どんな守りをも打ち破る鉄砲との戦い。「最強の楯」を誇る職人集団と「最強の矛」を誇る職人集団の対決という「矛盾」を描いた至高の作品だ。

テーマは「戦争と平和」ということになるだろう。矛や盾は何のためにあるのか、を問い続ける塞王と呼ばれる棟梁の心の動きを描いている。現代の問題に正面から取り組んだ力作だ。

最強の防御壁と最強の攻撃兵器。守りの工夫と攻めの開発の限りない競争。だが、これらは本当に強いのか。

石には声がある。石工職人の頭は「石は人である」ことを知る。生花の師匠は「活けたら花は人になる」とも語っていたことを思いだす。日本の山川草木の自然の中には人がいて神がいる。

少年のころに落城という悲劇によって家族を亡くした経験を持つ、石工の頭となっている主人公の匡介。「絶対に破られない石垣」を造れば、誰も攻撃をしようとは考えなくなり、民を泣かせる戦いは無くせると考えていた。

一方、戦いで父を喪った鉄砲職人の彦九郎は「どんな城も落とす砲」で皆に恐怖を植え付けることによって、誰も戦いを望まなくなり、戦いは無くなると考えていた。

天下を統一した秀吉が衰え死に至る。豊臣と徳川の戦いの気配が近づく。琵琶湖畔にある大津城の「ほたる大名」と呼ばれた京極高次は、匡介に石垣造りを依頼する。豊臣方の石田三成は、彦九郎に強力な鉄砲作りを依頼する。

西陣営の激突の勝敗を左右すると思われた大津城をめぐる攻防は、侍の戦いであると同時に、当代最高の職人集団の生存をかけた対決の場でもあった。

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「幸福塾」の準備に着手。

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旺文社『高二時代』第4巻第9号(1967)より

「名言との対話」5月12日。ジョージ秋山なにがすごいって、人の心を和ます奴ほどすごい奴はおらんだろうなぁ・・・」

ジョージ 秋山( - あきやま、本名:秋山 勇二(あきやま ゆうじ)、1943年昭和18年4月27日 - 2020年〈令和2年〉5月12日)は、日本漫画家。享年77。

東京都日暮里出身。中学卒業後、貸本漫画の取次店で仕事をしながら漫画家を目指す。1969年に「バットマンX」で講談社児童まんが賞を受賞し逆漫画家となる。

1970年代になって「銭ゲバ」、「アシュラ」など露悪的な描写で有害図書に指定されるなど話題になる。

1971年以降は青年漫画誌に活動をひろげる。1973年から『ビッグコミックオリジナル』に「浮浪雲」の連載を始める。幕末の品川宿でゆるやかに生きる主人公を中心に市井の人々の喜怒哀楽を描いた、この時代劇漫画は大ヒット作品になった。連載は2017年まで44年という記録的な長さとなった。2度にわたり、テレビドラマとなった。

1984年からは成人向けの漫画に手を染め、日活ロマンポルノの作品ともなった。また、聖書の漫画化にも取り組むなど、生涯にわたり、様々なジャンルを漫画という武器で渉猟した。

私自身はジョージ秋山の作品には接していない。代表作『浮浪雲』では多くの人々から共感を寄せられた。それは、主人公が語る言葉に魅了されたためだろう。

以下、いくつか拾ってみた。

「富士山に登ろうと心に決めた人だけが富士山に登ったんです
散歩のついでに登った人は一人もいませんよ・・・」という前向きな言葉もあるが、多くは次のように脱力系だ。

  • 立派になろうなんてのは、疲れますから、自分のやりたいことだけ、自分が楽しいことだけ、考えたらいいんですよ。
  • 怠けるだけ怠けたら、やる気になりますよ。人間なんてそんなもんですよ
  • 小事を気にせず 流れる雲の如し

そして、「なにがすごいって、人の心を和ます奴ほどすごい奴はおらんだろうなぁ・・・」という言葉もある。また、「人生で一番大切なことは 機嫌がいいこと」とも言っている。

平凡な日々を上機嫌で暮らすこと、そして周りの人の心を自然に和ますこと、そういう存在が大事だという人生観だ。他の作品も読んではいないので、ジョージ秋山は漫画家という職業は、そういう生き方にいい影響を与える仕事だと考えていたのだろうとしておこう。