プーシキン美術館展(横浜美術館)--コレクター列伝

素晴らしい美術館は、優れた絵画コレクターたちの永年にわたる蒐集活動によって成り立っていることが多い。
モスクワのプーシキン美術館がまさにそうだ。横浜美術館で開催中の企画展では、数百年にわたるコレクターたちの活動の成果を観ることができる。2011年3月11日の大震災の発生によって延期となった企画展である。

プーシキン美術館は2012年に100周年を迎えている。
ロマノフ王朝時代の皇帝、貴族、大商人、文化人たちのコレクション、そして1917年のロシア革命による容赦にない国有化、その後のレニングラードのエミルタージュ美術館所蔵名画の再分配、他美術館の閉館に伴う優れた個人コレクションの移管などの歴史の上に、この美術館が成立している。

コレクター列伝。サンクトペテルブルグ

  • エカテリーナ2世(1729−1796年。在位1762−1796年)。34年間という長い在位期間にわたって美術品の蒐集に力を入れた女帝。バロック以降の作品を体系的に集めた。
  • アレクサンドル2世(1818−1881年。在位1855−1881年)。櫓までアングルに聖画像を発注。それが「聖杯の前の聖母」だ。
  • ニコライ・ユスーポフ公爵(1750−1831年)。莫大な遺産を相続。ロココ美術と風俗画。

コレクター列伝。モスクワ。

  • セルゲイ・トレチャコフ(1834−1892年)。トレチャコフ・ギャラリーの創設者バーヴェルの弟。19世紀初頭からのヨーロッパの作品を体系的に集めた。弟を失った兄がギャライーごとモスクワ市に寄贈。
  • ドミトリイ・ポトキン(1829−1889年)。お茶の取引で財をなす。
  • セルゲイ・シチューキン(1854−1936年)。現代美術のコレクションを築く。ゴッホピカソマチスゴーギャンセザンヌ。モネ。
  • イワン・モロゾフ(1871−1921年)。慎重に体系だった蒐集。ルノワール。ドニ。セザンヌ

キーマンは、エカテリナ2世。シチューキン。モロゾフ
兄弟、一族でこぞって美術品蒐集に情熱を傾けるという不思議な現象が起こっている。エカテリーナ2世の集めた絵画はエミルタージュ美術館にあり、シチューキンとモロゾフの二人の名高いコレクションは西洋美術館になっていく。
これらをプーシキン美術館が継承していく。

以下、印象に残った絵画作品。

  • 「聖杯の前の聖母」(アングル)
  • 「カンダウレス王」(ジェローム
  • 「医師レーの肖像」(ゴッホ
  • 「ぼくは人物を描きたい、人物を、もっと人物を。赤ん坊からソクラテスに至るまで、白い肌の黒髪の女から陽に焼けて煉瓦色の顔をした黄色い髪の女に至るまで、この二本足の動物のシリーズはぼくの力ではどうにもならない」(ゴッホ
  • 「女性を観察し研究する時、私はたいてい花を想像します」(マチス